証券化・SPC専門の会計事務所でのキャリアや年収とは?中編:年収や経験について(アウトソーシング)

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⇒前編はこちら:証券化・SPC専門の会計事務所や税理士のキャリアとは?前編:業界の特徴 

前回の記事では、証券化やSPC専門の会計事務所の特徴や業界の動向について取り上げましたが、今回は証券化・SPC分野における個人のキャリアにフォーカスして解説していきます。

証券化やSPC分野のキャリアに関しては、特殊な分野であることから、その特徴が正確に理解されていません。この分野での年収、経験やキャリアには実際にはどのような特徴があるのでしょうか?(税理士試験の受験生の方
向けになるべく簡単に解説しようと思いますが、専門用語などで一部難しくなるかもしれません。ご了承ください。)

<本記事の目次>

経験・専門性 -証券化・SPC分野のふたつのキャリア

「証券化・SPC分野のキャリア」に関しては、意外と知られていませんが、大きく分けてふたつのキャリアがあります。

  1. アウトソーシング(ビークルの管理)…SPCの設立、記帳~税務申告、精算まで
  2. 証券化に関する税務・会計アドバイザリー…証券化のための税務スキームや連結などの会計のアドバイス

会計事務所業界では、多くの場合(特に税理士試験を受験中の若手の方には)、1のアウトソーシングが証券化やSPC分野のキャリアとして認識されていますが、ビークルを組成する段階での税務会計アドバイザリーというキャリアもあり、組成後のビークル管理を受託するアウトソーシングと合わせてふたつに分かれています。

1のアウトソーシングは、ビークルを設立するところから、設立したビークルの記帳や決算、税務申告を行い、ビークルの解散時期が来たら(ビークルは5年、10年など運用期間が決まっています)、精算の手続きを行うまでの作業を請け負う業務です。

2の税務会計アドバイザリーに関しては、企業が不動産などの資産を証券化する場合、資産流動化法などに基づいた税務・会計(ならびに法務)スキームで行います。

また、多くの場合、ビークルでは外部の投資家から資金を集めてその資金をもとにアセットを運用していきますので、投資や資金運用のスキームについても検討したり、金融機関や上場企業の場合はSPCの連結判定など会計上の検討を行う必要があります。

こういった視点から、税務や会計の分野からアドバイスを行うのが2の「アドバイザリー」になります。

このように、証券化・SPC分野のキャリアを理解するには、まずは「アウトソーシング」と「アドバイザリー」のふたつの分野のキャリアがあることを認識する必要があります。

証券化・SPCのアウトソーシング:キャリアの特徴

「アウトソーシング」の仕事内容

それでは、それぞれのキャリアについて見て行きたいと思いますが、まずはアウトソーシングのキャリアとはどのようなものでしょうか?

ビークルの管理(アウトソーシング)業務では、主に下記のような経験が積むことができます。

  1. ビークルの記帳代行~決算
  2. ビークルの税務申告
  3. ビークルのキャッシュマネジメント
  4. 投資家へのレポーティング資料や開示資料作成
  5. ビークルの設立
  6. ビークルの精算

6項目に分けて細かく記載していますが、「会社(ビークル)を設立して記帳、決算、税務申告をして、数年経てば清算する」ということで、基本的には一般的な法人の業務と同じです。ただし、ビークルには株式会社だけでなく、合同会社や匿名組合が含まれたり、資産流動化法に基づいた処理や資料作成、投資家や金融機関対応など独特な部分も多々あります。

細かい実務に関しては専門書にお任せしますが、キャリアの特徴をピックアップすると以下のような傾向があります。

■記帳~決算

ビークルはほとんどがキャッシュの出入りだけであるため、仕訳(取り扱う勘定科目)もシンプルです。そのため、ビークル中心の決算経験しか積んでいないと、一般事業会社を主要顧客とする会計事務所では評価されにくくなります。一方で、投資ファンドやリース会社、証券会社などのファンド関連部門では評価される可能性が出てきます。(後述しますが、こういった金融機関などで評価されることによって、一般的な税理士よりもはるかに高い年収を実現できるチャンスが出てきます。)

■税務申告

ビークルでは残った利益は出資者に分配してしまうことが一般的であるため、高度な節税を行ったりすることもほとんどなく、法人税の面ではシンプルな処理になります。一方で、不動産をアセットとして保有するケースが多いため、消費税の処理などは多い傾向にあり、消費税に関するキャリアは磨きやすくなります。

■キャッシュマネジメント

キャッシュマネジメントとは「資金繰り」のことです。ビークルの管理においては、ビークルが所有する不動産からの入出金や銀行口座の管理、投資家、金融機関などとの資金のやりとりが生じますので、キャッシュマネジメントも重要な業務になります。このキャッシュマネジメントは、デット(借入)やエクイティ(投資・出資)による資金の調達から、キャピタルコールと言ったビークル独特の資金繰りの手法もありますが、一般事業会社の資金繰りとは異なる部分があり、事業会社の財務部門などでダイレクトに評価されるキャリアではない点には注意が必要です。

■レポーティング資料、開示資料作成、連結などの会計処理

SPCなどのビークルを管理する場合、投資家向けのレポーティング資料や、REITなどの場合は開示資料作成の必要も生じます。また、ビークルに対する投資家が上場企業や大手金融機関などの場合は、ビークルが連結対象になることから、連結決算に対応する必要もあります。この部分は会社法や企業会計等に関する知識も必要とされ、一般の税理士や税理士受験生には不慣れな分野とも言えます。また、“税務”ではないので、人によっては好き嫌いもあるかもしれません。

■英語の利用

ビークル管理においては英語を使用する機会もあります。特にビークルのAM(アセットマネージャー)が外資系金融機関であったり、出資者に海外の投資家が含まれている場合は、英語で記帳を行ったり、英語のレポーティング資料を作成することがあります。一般の会計事務所では英語を使う機会はあまりありませんので、それらと比較すると証券化やSPC分野では英語を使用する頻度は多いと言えます。

「アウトソーシング」のキャリアが評価されるのは?

さて、このような証券化やSPC分野の専門スキルを身に付けた場合、以下の様な金融分野を中心としたフィールドで評価される傾向にあります。

  • 投資ファンド(主に不動産投資ファンド)
  • 証券会社
  • リース会社
  • アセットマネジメント会社
  • 証券化・SPC専門の会計事務所やアウトソーシング会社
  • その他、上記に関連する金融機関 等

一般的な会計事務所で、事業法人向けの税務業務を中心としている場合、金融機関への転職可能性はあまり高くありませんので、この部分は証券化・SPC分野のキャリアにおける最も大きな特徴と言えるでしょう。

一方で、SPCを中心としたキャリアとなるため、中小企業などをクライアントとしている一般的な会計事務所への転職は基本的には難しくなると言っていいでしょう。

証券化・SPC分野のアウトソーシング:年収はどれくらいなのか?

証券化中編マネー

さて、このような証券化・SPCアウトソーシングのキャリアにおける年収はどれくらいなのでしょうか?

年収はキャリアや勤務している会計事務所によって異なる部分もありますが、中小企業を対象とした一般的な会計事務所と比較すると高い傾向にあります。

以前、まずは年収500万円の税理士を目指すの記事でも解説したとおり、一般的な会計事務所の場合、年収は、

  • 税務スタッフ・科目合格者:年収250万円~350万円
  • 税理士(実務経験5年程度):500万円~

が目安となります。また、スタッフ(科目合格者)のままで税理士の資格を得ることができなれば年収もなかなかアップしません。

一方で、証券化・SPC専門の会計事務所の場合、年収は比較的高めであり、税務スタッフや科目合格者でも年収350万円程度からのスタートであったり、税理士にならずともアウトソーシング業務をしっかりと統括できる人材には500万円以上の年収が出るケースもあります。

また、税理士も同様で年収の下限は500万円程度と一般的な同じですが、経験を積んでアウトソーシングチームを統括できるようになれば700~800万円程度、時にそれ以上の高年収を実現できるケースもあります。

  • 税務スタッフ・科目合格者:年収350万円~ ※経験を積めば500万円以上となるケースもある
  • 税理士(実務経験5年程度):500万円~ ※但し、上限は一般的な会計事務所より高い

証券化・SPCのアウトソーシング:キャリアまとめ

今回解説しましたように、証券化・SPCアウトソーシングに関しては、以下のような特徴があります。

  • 会計事務所業界の中では年収は高い
  • 税務というよりは会計、金融分野の印象が強い仕事である
  • 英語を使えるチャンスがある
  • キャリアが長くなると一般の会計事務所には転職しにくくなる
  • 金融業界への転職のチャンスがある
  • 金融業界の景気が良くない時には転職も厳しくなる

このように、証券化・SPC分野のアウトソーシングでは、他の税理士や会計事務所が参入しにくい寡占市場でのキャリアを身につけることができ、また、一般的な会計事務所よりも高い水準の年収を得ることができます。さらには、ファンドを中心とした金融機関のバックオフィス職への転職可能性も出てくる点に特徴があります。

また、クライアントが大手金融機関であることから、日々の仕事でやりとりも金融機関や大企業勤務の方々が相手となりますので、中小企業経営者とのやりとりが苦手な人などにはやりやすい仕事とも言えるでしょう。

一方で、キャリアが会計事務所・税務というよりも金融・アウトソーシングよりのものになることから、金融業界の景気が悪化している不景気時などには転職が厳しくなるなど、金融業界と連動したキャリアになる点には注意しておく必要があります。

次回は、証券化・SPC分野における「税務・会計アドバイザリー」に関して解説します。

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【手塚佳彦/株式会社ワイズアライアンス代表取締役CEO】 神戸大学卒業後、会計・税務・ファイナンス分野に特化した転職エージェントにて約10年勤務。東京、大阪、名古屋の3拠点にて人材紹介・転職支援、支社起ち上げ、事業企画等に従事。その後、グローバルネットワークに加盟するアドバイザリーファームにてWEB事業開発、採用・人材戦略を担当するなど、会計・税務・ファイナンス業界に精通。また、株式会社MisocaのアドバイザーとしてMisoca経営陣を創業期から支え、弥生へのEXITを支援するなどスタートアップ業界にも造詣が深い。 2013年10月、株式会社ワイズアライアンス設立、代表取締役CEO(Chief Executive Officer)就任、会計事務所名鑑編集長。

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