会計事務所業界にはSPCや証券化に関する税務・会計サービスを専門とする会計事務所があります。
しかし、業界が特殊であることや、そういった分野を専門とした会計事務所がそれほど多くないことから、その実態やキャリアについてはあまり知られていません。ネットの掲示板などには「SPC専門の税理士だとキャリアのつぶしが効かない」と書かれていたりますが、実際はどうなのでしょうか?
今回はそのようなSPCや証券化に関する税務・会計サービスを専門とする会計事務所でのキャリアについて、前編、中編、後編の3回に分けて解説します。
<本記事の目次>
SPCや証券化に関する税務・会計サービスとは何なのか?
SPCや証券化に関する税務・会計サービスとはどのようなものなのでしょうか?まずは簡単に説明します。(専門的な話をすると非常に長くなるので、ここではざっくりと概略だけ説明します。)
SPCとは? -TMK、SPC、そして、ビークル
【ビークルとは?】
証券化やSPCには、会社法、資産の流動化に関する法律(以下、資産流動化法)、投信法など様々な法律が関係します。
こういった諸法令に基づいて、企業は不動産や金銭債権などの資産を保有するビークルとしてSPC(specific purpose company)などを設立するのですが、その組成や管理を行っているのがSPCや証券化に特化した会計事務所です。
【ビークルの中身(資産・アセット)は?】
ビークルには、GK(合同会社)、TMK(特定目的会社)、KK(株式会社)などが利用されますが、これらビークルは、事業体ですのでその中には資産(アセット)があります。
今回は詳細な説明は省きますが、ビークルの多くは、オフィスビルや商業施設、マンション(小規模から超大型まで規模は様々)などの不動産や金銭債権のみを保有しています。
かつ、ビークルは、従業員やその他の資産は保有していないため、会計や税務業務に関しても、キャッシュの出入りが中心であるため管理自体は比較的シンプルな傾向にあります。
ただし、資産流動化法に基づいた処理といった特殊なノウハウは必要になるため、そのノウハウを有しているのが、SPCや証券化に特化した会計事務所の特徴や強みと言えます。
どのような企業がビークルを組成するのか? -大手金融機関や不動産ディベロッパーが大量に組成
では、どのような企業がこのビークルを組成し、管理を依頼するのでしょうか?
これには非常にたくさんのケースがあるのですが、ごく一部、代表的なものを挙げると、大手金融機関(日系や外資系の証券会社、投資ファンドなど)や不動産会社、ディベロッパー(大規模な不動産開発会社)などが、SPCやTMKといったビークルを組成し、管理を会計事務所に委託します。これは企業によりますが、大手金融機関などであれば、数十から数百のビークルを組成し、その管理をまとめて会計事務所に委託するケースもわりと頻繁に見られます。
そのため、SPCや証券化に特化した会計事務所に転職した場合、クライアントは大手金融機関や不動産関連企業になることが一般的です。
また、管理するビークルは、ホテルやオフィスビルなどを保有しているケースが多いですので、そういった不動産やそれを運営するための資金(キャッシュ)を保有している特別目的会社(合同会社や匿名組合)の会計や税務業務を行うこととなります。
SPCや証券化に特化した会計事務所は儲かるのか?
では、SPCや証券化に特化した会計事務所は儲かるのでしょうか?
結論から言うと、SPCや証券化に特化した会計事務所は、非常に収益性が高く、一般的な会計事務所よりも儲かります。(後述しますが、そのためそこで働くスタッフの年収も高めです。)
儲かる理由としては、以下の4つが挙げられます。
- 大手金融機関や不動産開発会社がクライアントであるため報酬(顧問料)が高い
- 契約が複数年(5年~10年程度)に及ぶため、中期での収益が期待できる
- 一度に多数のビークル管理を依頼してくれることもあるため、大量の受注を一気に獲得しやすい
- 特殊な業務ではあるが、ひとつひとつの作業は小規模法人の管理に近いのでルーチン化しやすい
会計事務所業界でいうと、例えば、資産税コンサルティングなども収益性は高い分野として挙げられます。
資産税コンサルティングに関しては富裕層や資産家相手の仕事であり、高額な報酬が期待できますが、1件1件の案件が特殊であり、ルーチン化しづらく、かつ、大量受注もしづらいという特徴があります。
SPCや証券化に関しては、そういったデメリットが少なく、専門性は高めですが、ルーチン化して大量に受託できる点が高い収益性につながっていると言えます。
SPCや証券化分野の代表的な会計事務所とその変遷
代表的な会計事務所
では、このようなSPCや証券化を専門とした会計事務所にはどのようなところがあり、どのように発展してきたのでしょうか?
SPCや証券化分野の代表的な会計事務所としては、
などが挙げられます。
その他、一部の個人会計事務所(公認会計士事務所が多い)などでもSPCなどのビークルの管理を専門にしているところが見られますが、大手金融機関などが主なクライアントとなることから、東京以外の地域ではこういったタイプの会計事務所はほとんど見られません。
好景気による拡大とリーマンショック、そして、さらなる発展
これらの大手会計事務所は、資産流動化法(当時の特定目的会社法)が施工された1998年(平成10年)頃から徐々に規模を拡大し、先に紹介した代表的な会計事務所はいずれも従業員100名を超える規模へと拡大します。
そして、2007年~2008年前半にかけての空前の好景気も後押しし、この頃に規模の拡大はピークを迎え、この時期は、特に不動産への投資が盛んであったため、大規模な不動産への投資・開発に伴い大量のビークルが組成され、SPCや証券化専門の会計事務所の受注拡大につながりました。
しかしながら、2008年後半に世界を襲ったリーマンショックによって、投資マネーが一斉に引き上げられSPCや証券化を専門とした会計事務所も例外なくその影響を受けます。
一部の会計事務所では、規模の縮小や人員整理が行われるなど、かなり厳しい時代を迎えます。(こういった景気の影響を受けやすい部分が同分野でキャリアを積む際の注意点となります。詳細は後編で解説します。)
その後、景気の回復に伴い、現在では、同業界も不景気の底は脱し、わずかながらですが景気が回復しつつあります。また、2020年の東京オリンピックに向けて、東京近辺の開発も進むため、同業界にも再び好景気が来る可能性もあります。
また、東京共同会計事務所や平成会計社などは、こういった景気の回復に頼るだけではなく、より事業を安定・成長させるため、証券化やSPC以外の分野の事業の拡大も図っています。
特に、SPCや証券化分野に頼りきった事業構造では、景気の動向によって経営が不安定となるため、上場企業に対する法人税務サービスや未上場企業オーナーなどの富裕層に対する資産税コンサルティングなど、SPCや証券化以外のサービスも拡大しつつあります。
以上がSPCや証券化を専門とする会計事務所の概要です。(かなり簡略化して解説しましたので、一部、見解や事実認識の相違があるかもしれませんが、ご容赦ください。)
中編、後編では、今回の内容を踏まえて、SPCや証券化を専門とした会計事務所での年収や経験・キャリアについて解説します。
⇒中編はこちら:証券化・SPC専門の会計事務所でのキャリアとは?中編:年収や経験について(アウトソーシング)