平成27年(2015年)1月から相続税が改正となり、課税対象者が増加します。一部の会計事務所では、この流れを受けて相続税関連のサービスを拡充しつつありますが、そのインパクトは業界全体としてどれくらいなのでしょうか?
今回、相続税の改正と税理士や会計事務所のビジネスチャンスに関してまとめてみました。
まずは現状の相続マーケットを確認
まず現状の相続税マーケットについて見てみましょう。
国税庁の発表によると平成23年分の相続税関連のデータは以下のようになっています。
相続税の課税状況(平成23年分)
- 死亡者の数:1,253,066人
- 課税対象となった被相続人の数:51,559人(死亡者全体の4.1%)
- 納税者数(相続人の数):146,270人
- 課税価格:10兆7,468億円
- 税額:1兆2,516億円
また、相続税の実地調査に関する数字は以下となっています。
相続税の実地調査状況(平成23事務年度)
- 件数:14,000件
- 申告漏れのあった件数:11,000件
- 申告漏れ課税価格:3,993億円(1件当たり:2,896万円)
- 追徴税額:757億円(1件当たり:549万円)
なお、参考までに、相続対策などにも関連する贈与税の課税状況は以下となっています。
贈与税の課税状況(平成23年分)
- 課税人員:340,243人
- 取得財産価額:1兆6,248億円
- 税額:1,362億円
そして、相続税専門の代表的な会計事務所には下記のような会計事務所が挙げられます。
関東の代表的な相続専門会計事務所
関西の代表的な相続専門会計事務所
上記以外にも辻・本郷税理士法人や税理士法人山田&パートナーズなど、相続・資産税に強い大手会計事務所や、中堅・中小会計事務所でも、相続税に力を入れ始めている会計事務所は増えてきています。
相続税マーケットはどれくらい拡大するのか?拡大したマーケットでは何が起こるのか?
それでは、相続税の改正に伴い相続税マーケットはどれくらい拡大し、どのようなことが起こるのでしょうか?
5つほどポイントを挙げてみようと思います。
1:課税対象者は最大で1.5倍程度。マーケット規模は20%程度のアップか!?
平成23年に亡くなった125万3,066名のうち、相続税の課税対象となったのは約4.1%の51,559名、課税対象価額は10兆7,468億円、相続税額は1兆2,516億円でした。
財務省では、相続税法の改正に伴い、課税対象者が4%から6%に増えると試算しているため、課税対象者数は1.5倍程度まで増えると予想されます。一方で、税収に関しては財務省によると現在の1兆2,000億円程度から2,500億円前後の増加が見込まれているため、約20%程度の規模拡大となります。
この20%の拡大が会計事務所業界における相続マーケットの拡大率と考えられます。
もちろん、税収の増加率と税理士報酬の増加率がきれいに比例するわけではありませんが、そこまで大きくは乖離しないと思われます。また、現在の成熟した日本において1年でここまで20%も成長する市場は現在の日本にはほぼないため、仮に20%未満の拡大率であったとしても十分に魅力的な市場であると言えるでしょう。
2:課税価格は少額に。会計事務所の平均受注単価は下落か。
今回の相続税法の改正で、これまで富裕層のものだった相続が庶民も対象のものとなってきます。資産が少額な層に課税対象が広がるわけですので、相続税申告に関する平均受注単価は下落すると考えられます。また、大規模な土地やマンションなどの高額不動産を有している資産家が占める比率も下がると考えられます。
大手税理士法人や相続税専門の会計事務所がどこまで積極的にこういった小規模な顧客の獲得に動くのかは業界として注目するポイントとなります。また、個人会計事務所や小規模会計事務所がディスカウントや低価格戦略に動いた場合は、業界全体の値崩れにつながる可能性もありますので、その点にも注目です。
3:相続税マーケットは長期的に見ると拡大が続く
相続税マーケットに関しては、今回の相続税法の改正が大きく注目されていますが、日本全体においては今後もより一層の高齢化の進展が進んでいくため、相続税マーケットは長期的に見ても拡大マーケットであると予想されます。
そのため、会計事務所にとっては、今回のマーケット拡大を機会に、相続税申告のノウハウを積み、長期的なマーケット拡大に備えることも重要となります。
4:相続税に対応できる人材は十分なのか?
1年間で課税対象となる被相続人数が約5万人であるのに対して、税理士は約7万人であるため、相続税の申告を1年に1件も行わない税理士も多数いるのはこの業界の常識です。また、会計事務所のスタッフに関しても、同様で相続税申告の経験がある人材や相続税法を取得している人材はごく一部です。相続税の申告件数が大きく増加するに当たって、相続税申告に対応できる税理士はもちろん、会計事務所のスタッフも不足する可能性はあります。
特に、相続税の申告経験者を採用対象としている会計事務所にとっては人材確保が厳しくなる可能性があるため、相続税申告に対応できる人材を所内で育成できる仕組みを確立できるかどうかもマーケット拡大に対応していくためのポイントになると考えられます。
5:どうやって顧客を獲得するのか。B to Cマーケティングのポイントは地域密着!?
さて、相続税マーケットが拡大するとはいえ、顧客を獲得できなければ収益にはつながりません。また、相続税ビジネスはB to Cビジネスであり、かつ、どのタイミングで発生するかが読みにくいことなど、マーケティングにも難しさがあります。
相続税案件の獲得のために会計事務所がとれる手法には下記が挙げられます。
- 純広告(雑誌や新聞広告、ポスティング等)による顧客獲得
- インターネットによる顧客獲得
- セミナーによる顧客獲得
- 提携(金融機関、保険会社、他士業、相続関連ビジネス等)による顧客獲得
- 紹介(既存顧客や知人)
この中では2のインターネットによる顧客獲得に関しては、相続関連のリスティング広告やSEOは現時点でも競争が厳しく、採算性を考えるとここに投資して顧客を獲得していくことはかなり厳しいのではないかと予想されます。(先日、本コラムの会計事務所のWEBサイト活用術で解説したようなコンテンツマーケティングといった手法を行っている会計事務所はまだ少なそうですので、新たな手法を活用すればもしかするとチャンスがあるかもしれません。)
また、相続税案件を豊富に有している金融機関などは既に大手・中堅会計事務所や相続税に強い会計事務所と提携している可能性も高いですので、これから相続税ビジネスを始める会計事務所が、豊富な案件を獲得できる提携を実現するのは難しいかもしれません。
一方で、小規模な納税者が増えるということは、地方の資産家が遠方の大手会計事務所や相続税専門の会計事務所にわざわざ依頼するというようなケースではなく、身近で安価な料金でしっかりと申告を行ってくれる税理士を探したいというニーズが高まると思われます。(法人顧問の場合はオフィス街にあるしっかりした会計事務所を探すケースも多いですが、相続の場合は個人ですので、最寄り駅や近くのターミナル駅近辺の相談しやすい会計事務所を選ぶケースも少なくないと予想されます。)
そう考えていくと、セミナーや広告、提携などに関しても、地元の住宅街や住宅の多い沿線などをターゲットとした地域密着のマーケティングを展開していくことによって、顧客獲得を実現していける可能性もあるかもしれません。
以上、相続税改正と会計事務所業界に関する考察でした。
相続税の改正にともない、今後の会計事務所業界にどのような変化が起きるのか要注目です。