移転価格税制に関する事前確認(APA: 英:Advance Pricing Arrangement、米国ではAdvance Pricing Agreement)とは、企業が国外関連者と取引を行う際、移転価格の課税リスクをあらかじめ回避するために、その取引に係る移転価格に関して、その企業が採用する独立企業間価格及びその算定方法の妥当性を、一定期間(通常3~5年)、税務当局から事前に確認を受けるものである。移転価格調査が企業にとっては、税務当局主導の受動的な移転価格の検証であるのに対して、事前確認制度があることによって、企業サイドから能動的に移転価格ならびにその設定方針等の妥当性を立証し、当局に確認を求めることができる。そのため、移転価格調査の結果がもたらす更正リスク等の不確実性を排除し、予見可能性を確保することが可能となるため、結果的には納税者にとってコストの高い移転価格課税の発生を未然に防止することが可能となる。
また、APAは大きく分けて2種類あり、ひとつは、国外関連取引当事者がその所在する国の当局からのみ確認を受ける「国内APA/ユニラテラルAPA(Unilateral APA)」であり、もうひとつは当事者双方がそれぞれの所在地国の当局から確認を受ける「二国間APA/バイラテラルAPA(Bilateral APA)」である。2カ国以上の国を対象とした事前確認においては、政府間の合意を得るための相互協議の申立てを行う必要がある。
このふたつの違いとしては、二国間APA(バイラテラルAPA)は両所在地国の当局間の相互協議での合意が前提であるため、合意が行われ、その合意に従って国外関連取引を行う限り、国際的二重課税のリスクはなくなる。一方、国内APA(ユニラテラルAPA)は、一方の所在地国内のみでの確認であり、他方の所在地国がその確認を認めるとは限らないことから、国際的二重課税のリスクは残るが、国外関連者が租税条約締結国・地域(香港など)以外に所在する場合はそれなりに有効な手段である。
日本の事前確認制度は、pre-confirmationと呼ばれ、納税者と課税庁の間で行う「行政指導」として事実上の「事前の確認」にとどまり、たとえ課税庁が確認をしたとしても後に更正処分等の所得再計算が行われることもある。一方で、米国ではAPAの合意に法的拘束力が与えられているなど、国によってAPAの仕組みは様々である。