信託ストックオプションから学ぶべきこと:元国税調査官・税理士 松嶋洋が語る!税務署の実態と税務調査対策ノウハウ

元国税調査官が税務調査対策すべてお話しします_元国税調査官・税理士_松嶋洋

本記事は元国税調査官・税理士 松嶋洋がセブンセンスグループのメルマガに掲載したコンテンツの再掲載です。記事内で言及されている法令ならびにその解釈はメルマガ掲載時のものとなります。

数年前に、信託ストックオプションというスキームの課税関係が問題になりました。
信託ストックオプションは、法人課税信託という特殊な信託を活用したスキームです。
これによって、税制上のメリット得ながら、従業員に対して円滑に、インセンティブ報酬となるストックオプションを発行できるとされていました。

大前提として、無償で会社から付与されるストックオプションについては、それを行使して株を取得すると、行使価格と株の時価との差額について税率の高い給与所得で課税されます。

この点を踏まえ、税制上の特典として、「税制適格ストックオプション」があります。
この要件を満たすストックオプションであれば、この課税をなくすことができます。

しかし、税制適格ストックオプションの対象になるのは、発行時点の従業員などに限られるとされており、後日新規で雇う従業員や役員に同じようなストックオプションを発行するのは困難でした。
冒頭の信託ストックオプションは法人課税信託により、この問題を解決できると宣伝されて広がったものです。

将来の従業員にも無税発行できる、といった宣伝から、これは非常に流行していました。

しかし、数年前、税務当局は信託ストックオプションについて通常のストックオプションと同様に給与として課税すると明言し、過去5年間にわたり、所得税を追徴する考えを表明しています。

このスキームを作った弁護士は、税務署には確認を取っていると主張しています。
しかし、残念ながら確認をとっていたとしても、課税されないことの保証にはそもそもなりません。

なぜなら、税務署長クラスの責任能力のある職員が課税しないと明言しない限り、保証にはならないとされているからです。
実際、この点のリスクを踏まえ、税務署は税務署長クラスの職員を納税者に会わせないように徹底しています。
結果として、この信託ストックオプションについても、税務署に確認したから課税はない、と主張してもそれが認められる可能性は零に近いです。

なお、遡って5年分課税されるのは酷すぎるという声も大きいです。
しかし、税務署としては「今まで知りませんでしたから、知った以上は遡って課税しなければ課税の公平が保てません」で終了です。

国税庁に文書で課税関係を問い合わせ、国税庁ホームページに文書回答事例として掲載されるような場合は別ですが、税務署に電話などで確認したとしても、基本保証はない、ということになります。

結果として、今後信託ストックオプションに対しては多額の課税がなされ、この課税に対する裁判も続出することは間違いありません。
となると、このスキームを実行した納税者は、今後大きな不利益を受ける可能性が大きいと言わざるを得ません。

本件で学ぶべきは、課税関係が明確でないスキームにはあまり手を出すべきではない、といった当たり前の結論になります。

「法人課税信託」?というよく分からないものを使うと、このようなリスクがある訳で、慎重に対応する必要があります。

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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?

元国税調査官・税理士・松嶋洋元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋

昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。

参考サイト

著書

引用元:信託ストックオプションから学ぶべきこと– 経営・会計コンサルティング

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