執筆時現在、令和7年度改正で議論される予定の税制改正項目として、退職所得控除の見直しが挙げられます。
昨年から議論されていることですが、与党は退職所得から控除される、退職所得控除の縮小を考えているようです。
現状、退職所得控除は20年超勤務することで発生する退職所得控除の上乗せを廃止する方向で議論がなされている模様です。
退職所得の計算上、退職金額から控除される退職所得控除は、勤続年数1年あたり40万円の控除が認められ、勤続年数20年を超えた場合、その超えた年数に相当する控除額は1年あたり70万円に上乗せされます。
この点の改正については、昨年度から検討が進められていたのですが、昨年度は与党の支持率低下を受け、見送られたという経緯があります。
昨年度改正時の際の情報では、20年目までの年40万円を増額させる反面、この上乗せを排除して、一律で退職所得控除を計算する仕組みを考えているようです。
一年あたりの金額が増えたとしても、上乗せ部分を廃止すれば差額としては増税になるようで、物価高で苦しむ国民にとってはまたも厳しい増税が実現しそうな雰囲気になっています。
この増税については、労働環境の流動化のために必要などと言われています。
日本の経済成長のためには、成長産業に人材がシフトしていく仕組みが必要であります。昨年度改正の際、世戸は退職所得控除の上乗せがあればそれが阻害されると指摘し、改正の必要性を訴えていました。
20年超努めれば退職所得控除が上乗せされるメリットがあるため、本当は転職したくても労働者は転職しないので問題、などといった指摘がなされていたのです。
しかし、私自身もそうでしたが、転職する理由としては、キャリアアップや現状の職場に対する不満が大きいと思われます。
退職所得は数十年後の退職時にもらえるものですから、眼前の給与や職場に対する不満がある労働者が、退職所得控除が増えるから我慢して転職しないなどということはないでしょう。
そうなると、退職所得控除の上乗せを廃止したからといって労働環境が流動化するということはないはずです。
むしろ、流動化を図るには、解雇しづらい労働法制などを見直す必要があり、税の問題ではないと考えます。
言うまでもなく、労働環境と退職所得控除の見直しを結びつけることで増税に対する国民の不満をごまかすのが与党の目的と考えられます。
とりわけ、103万の壁の改正が令和7年度改正の主要検討項目であり、仮にこの改正が実現すれば減収になるため、増税を実現させたい、という与党の意向が見て取れます。
このため、現状の政治状況を踏まえると、退職所得控除の見直しが実現する可能性は極めて高いと言わざるを得ません。
詳細は今後の税制改正の動向を見る必要がありますが、退職所得控除の増額分が減る反面、通常の年40万円という控除金額は増えるようなので短期で退職する方にとってはむしろ都合がよくなるかもしれません。
このような退職者と言えば、「天下りの公務員」を思い浮かべるのは私だけではないと思います。
公務員に対する援助、という本音が与党にないことを期待したいですが、増税ありきの現行の政権を見ると、この疑念が晴れません。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。