相続税の計算において、被相続人が負っている債務は原則としてその相続財産から控除することが認められています。
これを債務控除と言いますが、債務控除の対象になる債務は、「確定」したものではなく、「確実」と認められるものです。
税理士の仕事の中心は法人税であることもあって、税理士は債務について「確定」していることを前提に考える傾向があります。
法人税法や所得税法上、経費になる金額は各事業年度において債務として「確定」していなければならないという債務確定基準が設けられています。
ごく簡単に債務の「確定」の意味を申し上げれば、取引先から請求を受けた時に、「仕事を終わらせないとお金を払わない」と言えない状態にあることを言います。
この状態にあれば、経費の金額も支払義務も確定しているため、経費にしても問題ありません。
結果として、例えば修繕工事などのサービスは、仕事を全部完了させないと経費にならないとされています。
一方で、相続税の債務控除は「確実」と認められれば大丈夫ですので、保証債務なども対象になる場合があります。
ある債務者の保証人になった場合、その債務者が返済できない場合には、保証人はその借金を返済する義務を負うことになります。
このため、保証される原債務者が実際に払えなくなり、債権者から払えと保証人が請求を受けた段階が債務の「確定」になります。
しかし、債務控除は「確実」と認められればいいため、被相続人が保証人になっている債務者が客観的に見て返済ができないと見込まれるのであれば、その保証債務についても控除が認められます。
「確定」と「確実」、一字しか変わりませんがその相違は大きいです。
一例として、被相続人の固定資産税の取扱いでも大きな違いがあります。
固定資産税は、毎年1月1日の所有者に対して課される税金で、その税額は納税義務者ごとに、個別に通知されます。
なお、固定資産税の世界では、1月1日を賦課期日といい、税額を通知することを賦課決定といいます。
被相続人が死亡した場合、死亡した日までの所得税を準確定申告で申告しなければなりません。
その準確定申告で経費になる固定資産税は、被相続人の死亡日賦課決定されたものです。
賦課決定されることで納付する義務が確定しますので、その時が債務の「確定」となるからです。
このため、1月1日の所有者が被相続人であったとしても、死亡日までに賦課決定がなされなければ、その固定資産税を準確定申告で経費にはできません。
一方で、被相続人の債務控除は賦課決定に関係なく、賦課期日において所有者であれば認められます。
1月1日の所有者に対して固定資産税が課されることは「確実」と認められるからです。
このため、準確定申告では経費にならないものの、債務控除の対象になる固定資産税があり得る訳で、処理を間違わないように注意する必要があります。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。