数年前の事例ですが、非常に大きな税理士のミス事例として、ストラディバリウスを減価償却したという事案がありました。
機械などの固定資産の取得費は、支出したタイミングでは一度に経費にならず、耐用年数に応じて少しずつ経費にします。
この手続きが減価償却です。固定資産は長期に渡り使用するため、その使用に応じて経費にするのが妥当という考えから、このような処理をすることになっています。
ただし、その例外として、骨とう品や芸術品などがあります。
ゴッホの絵などはいくら年月が経とうが価値が下がりませんので、このような歴史的価値があるものは、減価償却を認めないとされています。
ストラディバリウスは歴史的価値があり、かつ希少価値も極めて高いバイオリンでとんでもない値段もしますから、これについても減価償却は認められません。
しかし、とある税理士はストラディバリウスを減価償却してしまい、多額の税金を税務当局から課税されたのです。
ケアレスミスですが金額が膨大ですから、非常に恐ろしいミス事例として有名です。
この骨とう品などの意義について、先日また問題になった判例があります。
それはフェラーリに関する事例です。
高級車であるフェラーリを会社で買った場合、会社の経費になるかそもそも問題になりますが、限定品のフェラーリなどは年月が経っても値段が下がりません。
となると、フェラーリも減価償却できないのではないか、といった疑義が生じます。
この判例では、フェラーリは希少価値があっても車という機能があるから、といった趣旨の判断で、価値が下がる資産で減価償却を認めるとされた模様です。
しかし、この判例で問題になったのは、譲渡所得の計算であることに注意が必要です。
個人が資産を売った場合にかかる譲渡所得税は、譲渡代金から資産の取得費を差し引いて計算します。
この資産の取得費は、減価償却ができるものは償却費を引いた後の金額となります。
このため、譲渡所得税の計算においては、減価償却できない資産を売った方が、税額が小さくなることになります。
実際のところ、納税者は先のストラディバリウスの事件を持ち出して、売却したフェラーリもこれと同じだ、と主張しました。
しかし、裁判所はその主張を認めませんでしたが。
となると、減価償却した方が税務当局に有利な譲渡所得の計算は、減価償却をすべきとされるものの、減価償却されると困る場合、すなわち会社の経費の計算上は、そうではない処理が求められる。
こんなダブルスタンダードを税務当局が採用する可能性があると考えています。
具体的には、会社の税務調査では「フェラーリは社長の趣味なので、減価償却できても全額が社長の賞与で経費になりません。」
こんな指導が増えると危惧しています。
追伸、
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。