去る令和5年3月6日、マンション販売業者の消費税事件について、残念な最高裁判決がありました。
この判決では、税務署が行った消費税の追徴はもちろん、追徴される消費税に課される加算税についても、すべて合法であるという判決を下しています。
以前も、最高裁は相続税の租税回避に対して、残念な判決を出していますが、近年の税務に関する最高裁の機能不全は著しいと言わざるを得ません。
冒頭のマンション販売業者の消費税事件においては、転売目的でマンション販売業者が購入したマンションの消費税が問題になっています。
転売用のマンションについて、転売前に賃料が発生していた場合、そのマンションに係る消費税の控除が制限されるかどうかがこの事件の争点でした。
正しく法律を読むと制限されると読めますので、税務署の課税には通常であれば違法性はありません。
しかし、税務署はその解釈を誤ってしまい、控除は制限されないと回答した上で、その後長期に渡り、マンション転売業社の消費税の控除を認めていました。
今回、最高裁まで争われたのは、税務署は突如として解釈を変え、消費税を追徴し始めたからです。
税法は非常に強硬的なものですので、税務署が回答ミスをした場合でも、税務署の責任は問えず、払うべき消費税は納めなければなりません。
しかし、ペナルティーに当たる加算税は別で、税務署に非があるのに、納税者にペナルティーを課されるなどあってはなりません。
税務署も人間の組織である以上、ミスはあり得ます。実際、過去の判例でも、税務署のミスに対してはペナルティーを科すのは問題とされるケースはよく見られます。
今回は税務署のミスが明確であったために、当然にペナルティーは免除すべきでした。
しかし、最高裁は加算税も課税できるとし、その理由として、回答ミスがあったとしても税務職員が平成17年頃に書いた書籍には控除が制限されると書かれていたことを指摘しています。
その上で、実際のところ、その書籍が出版された年以降は、国税不服審判所の裁決事例などで、マンション転売業者の消費税は制限される判断が示されている、とも言及しています。
すなわち、税務署が事後的に解釈を変えたとしても、このような情報が書籍や裁決事例で出ている以上は納税者も分かるはずで、それを見ていない納税者に非があると最高裁は判断したのです。
言うまでもなく、専門家ではない一般納税者は税に関する書籍はもちろん、裁決事例など見ていません。
税務職員が書いた書籍には、必ず「(税務署の公的な見解ではなく)個人的な見解です」と示されています。
書籍の記述が間違っていた場合の言い訳としてこのように書いているのですが、このような書籍の記述を無条件に信頼することは危険です。
このため、これらの情報を適宜チェックしていない方が悪いなどと言われても、違和感しか残りません。
最高裁が正しい法解釈をしなければ納税者の不利益は高まる一方です。再度、正しい判断を行うよう、最高裁の冷静な判断を期待したいです。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。