個人が不動産を賃貸して得る所得については、不動産所得として課税されます。
不動産所得の計算上、重要な点は不動産の所有者が誰か、ということです。
「何当然のことを言っているのだ?」と思われるかもしれませんが、実務においてはこの点非常によく問題になります。
不動産所得の納税者は、原則として不動産の所有者とされているからです。
いくつか問題になる事例を挙げます。
アパートを夫婦で共有しているものの、夫が単独で大家業を行っており、妻は何ら関与していないケースがあります。
この場合、アパートの家賃は事業主である夫が100%申告するのではなく、共有持分に応じ夫と妻が申告することが原則です。
それぞれ、共有持分に応じたアパートの所有権を有しているからです。
次に、子が親の土地を有効活用するため、親から土地を無償で借りて(使用貸借)、更地の月極駐車場として他人に貸しているようなケースも同様です。
駐車場業というビジネスの意思決定を行い、直接利用者からお金を得ているのは子ですが、不動産所得の申告は原則として土地の所有者である親が行う必要があるとされています。
この点、子が地代も親に支払っておらず、かつ駐車場業で稼いだお金を自分の自由に使っていたとしても、原則として親の不動産所得として申告することになるとされているのです。
不動産所得についてはこのようなルールになっている反面、事業所得については事業の意思決定を行う事業主がその所得を申告することが原則になります。
一方は不動産の所有者、もう一方は事業の意思決定者と、所得の種類に応じて誰が申告するのか、そのルールが大きく異なるため混乱しないよう注意が必要です。
とりわけ、駐車場の場合にはその内容によっては事業所得になることもありますので注意が必要です。
更地の月極駐車場のようなケースは原則として不動産所得に該当しますが、コインパーキングのような時間貸し駐車場で、それなりの規模があれば、管理責任があるため事業所得になるとされます。
不動産所得はいわゆる不労所得であり、管理責任のあるようなものは不労所得ではありませんので、同じ駐車場業でも所得区分が異なるとされています。
となると、時間貸し駐車場の場合には、使用貸借により親から土地を借りて子が経営していれば、子が申告しなければならないといった結論になります。
所得税は所得を10種類に分類し、それぞれ異なる課税を行うという非常に複雑な制度であり、所得区分が異なれば申告する者も異なる場合もあります。
税制改正では折に触れて簡素な税制が必要と言われますが、現行の税制もこんなに面倒くさい訳ですから、その実現は非常に難しいと言わざるを得ません。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。