数年前、税務署が「税に対する公平感への悪影響が危惧される調査事例」を政府税制調査会において説明したことが話題になりました。
この調査事例は、税務署がいくつか悪質と判断した事例をまとめたもので、その中で6つほどの事例が挙げられています。
中でも、
①更正の請求時に行われた仮装隠ぺい取引や
②長期に渡る無申告などについては、
その弊害を防止するため、今後の税制改正で防止規定が措置される可能性がある、といった報道がなされました。
この資料の内容については、そのいくつかが法制化されることになっています。
令和6年度改正では、上記①が法制化されています。
税額計算を間違えてしまい、過大に税金を納めてしまったような場合には、納めすぎた税金を還付してもらうために、更正の請求が認められます。
更正の請求は現状5年間認められることもあり、広く行われています。
しかし、更正の請求において不正行為を行って還付を請求したとしても、その不正な還付金額に重加算税を課税することはできませんでした。
売上除外などの隠ぺい行為や架空経費を計上する仮装行為に基づいて「申告」を行うと、重加算税という高額のペナルティーが課されます。
しかし、更正の請求は「申告」ではありませんので、現状は重加算税の対象にならないという理屈です。
このため、架空の経費の領収書を作成し、経費の計上もれがあるとして更正の請求を行った納税者には、重加算税を課税できませんでした。
結果として、この点が令和6年度改正で、令和7年より、隠ぺいし仮装した場合の更正の請求について、重加算税が課税されることとされました。
次に、上記②の長期に渡る無申告ですが、令和6年1月から、期限内に申告がない場合のペナルティーである、無申告加算税の加重措置がスタートします。
無申告は1年でも好ましくありませんが、高額な所得があるのに数年間にも渡り無申告だった事例が指摘されていました。
通常、このような連年無申告は重加算税の対象になると言われます。
しかし、連年無申告に対して重加算税を課すためには、意図的に申告していないことが客観的に分かるくらいの事実関係が必要とされています。
このため、悪質性はあると判断されるのに、十分な証拠がなく重加算税を課税できない場合もありました。
この点を踏まえ、無申告で納税額が300万超になる場合には、その部分に課される無申告加算税が10%上乗せされることになります。
加えて、前年度・前々年度に無申告加算税が課税された場合、更に当期も無申告加算税が課される場合にも、上乗せで課税されることとされています。
不正は論外ですが、無申告についても今まで以上に気を付ける必要があります。
その他、冒頭の調査事例の中には、「調査時に資料の提示・提出を拒否・遅延された事例」も紹介されています。
「遅延」とありますので、これだけ聞くと税務調査対策の王道である税務調査の長期化について、税務当局が厳しい目を向けるようになったという印象を受けます。
しかし、資料を読む限り、あくまでも「正当な理由なく」長期化することを問題にしていることが読み取れます。
正当な理由があれば長期化は今後も問題ない訳ですから、長期化させるための合理的な理由を用意するとともに、それが合理的であることについて逐一国税調査官の了解を得ながら、税務調査をうまく乗り切ることとしましょう。
追伸、
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。