今後、実現可能性が高い税制改正事項として、生前贈与加算における加算期間の延長が挙げられます。
令和5年度改正では、加算期間が3年から7年に延長されていますが、将来的にはこの期間の制限がなくなる可能性もあります。
贈与税の計算上、年110万円までは非課税となる暦年贈与については、相続開始前7年内の相続人に対する贈与は相続財産に加算され相続税の対象になるとされています。
これを生前贈与加算といいますが、7年以前の贈与は加算の対象にはなりません。
国はこの生前贈与加算の加算期間をもっと根徴したいと考えているはずで、令和5年度改正で7年とされる前は、10~15年程度に延長させる方向であったと報道されていました。
現状、相続前7年分しか加算されないので、生前贈与をうまく使って相続財産を減らす、というのは王道中の王道の相続税の節税です。
しかし、税収を確保したい財務省は、このような節税も問題視しています。
仮に、加算期間の制限がなくなれば、生前贈与による節税は難しくなる訳で、生前贈与以外の節税が必要になり、より早いうちから計画的な相続税対策が必要になります。
現在においては、7年が加算期間ですので、それより前の生前贈与は問題ありません。
このため、早いうちから生前贈与することは有効ですが、このような贈与をするのであれば、名義財産の否認リスクがついて回ります。
例えば、小学生の子に贈与税が課されない110万円の預金を贈与したとしても、その預金の管理は贈与した親となることが通例です。
そうなるとその預金は子のものではなく親のものであり、生前贈与は認められない、と税務当局から指摘される可能性が大きいです。
意思能力がない未成年の子については生前贈与を否認される可能性がついて回りますので、そのリスクヘッジをどうするのか、常に検討が必要です。
話を戻しますが、財務省の本音は生前贈与の加算期間を永久にすること、すなわち「相続時精算課税」に贈与税の計算を一本化することにあることは決して忘れては行けません。
過去の税制改正大綱に書かれたこともあって、暦年課税を廃止し、過去に贈与を受けた財産のすべてを相続財産とする相続時精算課税制度に贈与税の課税方式を一本化する改正がいつかは行われる、といった噂が広まっています。
おそらくですが、このような噂に対する批判が大きかったので、令和5年度改正では敢えて暦年課税は廃止せず、生前贈与加算の加算期間を増やす改正に落ち着いていると思います。
しかし、これはあくまでも手始めと思っています。今後の景気動向などを見つつ、国は暦年課税を廃止する増税を実現させようとするでしょう。
こういう訳で、税制改正の方向性には今後も注意が必要ですが、困ったことに税制改正については、非常に多くのフェイクニュースが流されています。
具体的には、生前贈与加算の期間を増やす「増税」が本音なのに、生前贈与加算の期間が増えることで早いうちに若者に贈与を促すための「政策」措置である、といった報道が令和5年度改正の際にはなされていました。
若年層に早く贈与しても、名義財産として否認するのは目に見えているので、税務当局にはこんな意向は全くありません。
このようなフェイクニュースに騙されることなく、毎年度の税制改正には厳しい目を向ける必要があります。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。