相続税の評価において、疑問に思うことが多いのが、無議決権株式の評価です。
非上場株式の評価は、議決権に応じて異なる方法が採用されており、議決権が大きい株主やその同族関係者は原則的評価という高い評価となります。
その反面、それ以外の議決権が小さい株主については、特例的評価という低い金額で評価できるとされています。
この取扱いを利用して、本来原則的評価が適用されるオーナー一族などの株主が、議決権のある株式を無議決権株式に転換すれば、議決権がないため特例的評価で節税ができる、と解説する書籍がいくつか存在します。
これらの書籍の記述を見た富裕層の方から、相当高額な自己株式であっても、無議決権株式に転換すれば節税できるのではないか、といった相談をよく受けます。
しかし、私はすべからく無理と指導しています。なぜなら、無議決権株式に転換することは非常に簡単で、やろうと思えばいつでもできるからです。
このような安易なことで節税できるなんてことを、税務当局が許す訳はないからです。
ただし、このような解説をしても、一般の納税者の方に理解してもらえることはほとんどありません。
議決権が小さければ特例的評価になるというのは、税務当局が決めた通達で明記されているルールだからです。
通達に従っているのに、何で無議決権株式を使った節税ができないのかといったお叱りを受けることさえあります。
さらに困ったことに、通達のルールですから、税務当局の相談センターに質問すると、国税職員は「通達でOKですから問題ないと考えられます。」と回答します。
しかし、相談センターの回答は絶対的なものではありませんし、税務調査で異なる事実関係を発見したような場合には、その回答と異なる課税をしても法律上問題はないとされています。
このため、中には相談センターのお墨付きもある!と腹を立てておっしゃるお客様もいるのですが、それでも無議決権株式で節税するのは危険極まりないことです。
結果として、無議決権株式を使った節税を実行すれば後日の税務調査で問題にされる可能性があり、実行しなければお客様からクレームを受けます。
このため、税理士としてはどちらに転んでも望ましくない訳で、法律や通達を無視して税金を取る税務当局の実態や、無議決権株式の取扱いの真実について、一般の納税者の方にも理解してもらいたいと考えています。
とは言え、このような理想はまず理解してもらえないでしょう。
いずれにせよ、こんな節税を税務署は許す訳はありませんから、無議決権株式に転換すれば特例的評価になる、という正気の沙汰とは思えない通達を一日も早く税務当局は改正するべきです。
税理士や納税者に万一の責任を取らせる現実を率先して変えるべきでしょう。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。