相続時には「争族」が発生することもありますが、この場合に問題になることの一つに、その争っている他の相続人が情報を開示してくれないことがあります。
相続税の申告については、被相続人の財産全体が分からないと正しい申告ができませんので、相続人全員の協力が必要になります。
しかし、争族が発生してしまえば、これができないことになり、結果として正しい申告もできないことになります。
正しい申告ができないとなると、その原因によっては重加算税も課税されることになる訳ですが、この場合、争っている他の相続人が財産を隠ぺいし、自分は知らなかったといったケースが問題になります。
常識的には、あくまでも財産を隠しているのは他の相続人で、自身は隠ぺいしていない訳ですから、自分に重加算税は課税されないはずです。
この点、昭和の時代の古い裁決事例などを見ますと、隠ぺいした財産を管理していた相続人にのみ重加算税が課税されています。
ここでは、隠された財産の存在について、その財産を管理していない他の相続人は把握しようもないため重加算税はかからない、と至極まっとうな判断がなされています。
しかし、近年の事例では、自分が知らなかったとしても重加算税が課税される場合がある、といった判断がなされることもあります。
具体的には、他の相続人に相続財産の調査や相続税の申告を丸投げした、とされる場合です。
法人税の場合、とある役員に経理処理を丸投げしたためにその役員の横領が発生した場合、内部けん制を整備せずに丸投げした会社に責任があるためその横領に対して重加算税が課税されるとされています。これと同じ理屈が相続税においても成り立つという訳です。
このため、丸投げした責任を問われるのが近年の傾向ですから、相続税の申告においては、特定の相続人に処理を丸投げすることなく。相続人一人ひとりが主体的に関わる必要があるのです。
ところで、自分以外の責任で重加算税が課税されるという論点からすれば、自分が知らないうちに被相続人が隠ぺい仮装行為を行っており、その隠ぺい仮装された事実関係を基に相続税や所得税の準確定申告をした場合の取扱いも問題になります。
この場合ですが、税務の大原則として、被相続人の納税義務は相続人が承継するとされています。この大原則に倣い、重加算税の対象になる行為についても、原則として相続人が承継するとされています。
このため、このようなケースについても、重加算税の対象になり、相続人が過大な税負担を負うことになりますので、よく言われる話ですが、早めに相続の問題については、税務面を含めて相続人と話し合っておく必要があると言えます。
相続問題は早期の対応をする。「争族」対策だけでなく、やはり税務対策でもこれが必須なのです。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。