先日、みずほ銀行に対する国税の課税につき、東京高裁でみずほ銀行が逆転勝訴した事例があります。
この事件では、みずほ銀行がケイマン諸島に作った特定目的会社につき、タックスヘイブン税制の対象になるかどうかが争われたものです。
日本の税制においては、タックスヘイブン税制と言われる税制があります。
これは、ケイマン諸島などのタックスヘイブンに関連会社を作り、そこに利益をため込むことで日本の課税を逃れようとすることを防止するための制度です。
タックスヘイブンは税率が0%もしくは極めて低いため、そこに日本の親会社の利益を飛ばせば、グループ全体として税負担は大きく下がることになります。
このため、タックスヘイブンに作った関連会社について、事業の実態があると認められるなど、所定の基準をクリアしない場合には、日本の親会社に対し、その関連会社が留保した利益の一部について課税することとされています。
みずほ銀行もタックスヘイブンに関連会社を持っていたため、この関連会社についてタックスヘイブン税制が適用されるかどうかが問題になりました。
法律の条文を読む限り、本件では、タックスヘイブン税制が適用されると当然に解釈できます。
この点を踏まえ、国税は課税処分をし、かつ東京地裁もみずほ銀行を敗訴としたのですが、どういう訳か東京高裁はみずほ銀行を勝たせました。
判決が逆転した理由として、東京高裁は、みずほ銀行は節税目的でタックスヘイブンの関連会社を使った訳ではないから、としています。
タックスヘイブン税制は節税防止制度のための制度である以上、節税目的を持っていないみずほ銀行に対し、課税するのは趣旨としておかしい、として東京高裁はみずほ銀行を勝たせたのです。
専門的には、このような解釈を趣旨解釈といいます。
一見すると合理的な判断に見えますが、税法については原則趣旨解釈をするべきではなく、法律の条文を文言の通り正確に解釈しなければならないとされています。
これを文理解釈といい、税法は文理解釈がすべてと言われます。
となると、趣旨としては課税するべきではない場合でも、文理解釈で課税されるとされていれば、課税しなければならないことになります。この理屈は税法の常識です。
こういう訳で、逆転勝訴した判決とは言っても、東京高裁は誤った結論を示している、と考えています。
このような低レベルの判決を出してしまう裁判所は、原則として税法を解釈する力はないといわざるを得ないでしょう。
そもそも、司法試験に税法が出題されないため裁判所は税法に詳しくありませんし、勉強していない者に判断を任せてはいけないはずです。
となれば、きちんと税法を理解できる能力者、すなわち民間にいる税理士や研究者が、裁判所に成り代わって審査する必要があり、そのための機関を作ることも必要と言えます。
なお、この事件は最高裁でも判断され、最高裁はさらに判断を変えてみずほ銀行を敗訴としています。
近年、最高裁もおかしな判断をしていますが、本件は妥当な判断をしたと評価されます。
税務調査対策ノウハウを無料で公開中!
元国税調査官・税法研究者 松嶋洋による税務調査対策に効果的なノウハウをまとめたPDFを無料で公開中!ご興味のある方は下記サイトよりダウンロードください。
元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。