先日、とある相続税対策スキームについて、審判所で国税当局が負けた事例があるようです。
この事例の概要は以下の通りです。
①まず、相続人が被相続人に対し、建物を時価相当
額で譲渡する
②その売買代金は相続人が被相続人に貸し付けをす
る
というものです。
相続税対策として、銀行から借金をして建物などの不動産を買う、ということはよくあります。
こうすることで、マイナスの財産である借金は額面で評価される一方、建物などの不動産は時価に比て非常に小さく評価されることになります。
結果として両者の差額で課税対象となる相続財産の純額はマイナスになり節税になる訳です。
この事例においては、それを相続人と被相続人とで行った訳ですが、銀行から借金する場合と比して、混同という仕組みが使えることが特徴です。
混同とは、債権者と債務者が同一になったため、借金も貸付金も相殺されることを言います。
先の②の通り被相続人に貸した相続人のお金について、③借金としてその相続人が承継するため、その借金はその相続人において被相続人への貸付金と混同により消滅することになります。
通常の相続税対策のように、銀行からお金を借りるのであれば、相続税を節税できたとしても、その後銀行への返済を行わなければならず、相続人に負担が残ります。
実際のところ、相続税の節税ができたものの、借金をして購入した建物に空室が発生し、返済が滞ってしまい痛い目にあった相続人の存在が数年前に社会問題になりました。
しかし、銀行を使わないのであれば、このような問題は生じず、より有効な対策となります。
このスキームに対し、国税当局は混同によって借金が最終的にはなくなることが見込まれるのであれば、借金として相続税の計算上、相続財産として相続財産から控除することは認められないとして課税処分をしています。
法律上、控除される借金は「確実と認められる」借金である必要があるとされています。このため、実質的に確実と認められないものは対象にならないと解釈できますから、法律的にも妥当な処分と考えられます。
しかしながら、審判所は建物の相続税評価額に相当する債務については、「確実と認められる」という判断をしたようです。
同じ一つの借金であるのに、建物の評価額部分は確実で、それ以外は確実でないというのは、一見すると筋が通りません。
建物部分については相続税の課税対象になるため、その部分に相当する借金については引いてあげないと、相続税の金額が大きくなりすぎるので困る、といった温情的な判断なのでしょうか。
税法は厳しいもので温情的な解釈は許されないといわれますが、たまにこのような温情的な判断もなされますので、法律だけでなくいろいろな事例にも当たる必要があります。
税務調査対策ノウハウを無料で公開中!
元国税調査官・税法研究者 松嶋洋による税務調査対策に効果的なノウハウをまとめたPDFを無料で公開中!ご興味のある方は下記サイトよりダウンロードください。
元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。