税務署に対し、会計検査院から厳しい指摘があったため、令和4年度改正においては、「大口株主の要件の見直し」という改正がなされました。
大口株主とは持株割合が3%以上の個人株主を言います。
上場株式の配当は、原則として、税率が安くなる分離課税で課税されます。しかし、大口株主が受けるものは、分離課税ではなく総合課税で課税されることになります。
総合課税であれば累進課税の影響を受けることになり、所得が大きい納税者は分離課税の税率よりも高い税率で課税されますので、大口株主になると課税上不利な状況になることが通例です。
この大口株主にならないようにするため、実務においては自分の資産管理会社に一部株を持たせる、という仕組みが使われていました。
あくまでも、個人株主が3%以上持つ場合が本制度の対象ですから、個人で持っている上場株式を資産管理会社に譲渡し、自己の持株割合が3%未満となるようにすれば、それだけで大口株主の要件から外れた、という訳です。
会計検査院はこのような安易な制度逃れを問題視したため、令和4年度改正では、自分の上場株式の保有数と、オーナーである同族会社の保有数を合わせ、持株割合が3%以上となるときは、大口株主に該当するという改正がなされることになりました。
こうすれば、安易に大口株主から逃げられることはないという理解なのでしょうが、実際のところこの改正には致命的な抜け道があり、もっと真剣に制度を作る必要があったと考えられます。
といいますのも、自分が支配する同族「会社」と合わせて持株割合を判定するため、会社でない法人、例えば一般社団法人を使い、自分の持株割合を3%未満とするような形で一般社団法人に上場株式を持たせれば、それだけで大口株主から逃れることができると考えられるからです。
一般社団法人を利用すると、多額の相続税が節税できたことから、数年前に一般社団法人に係る相続税の仕組みを厳しくする改正が実現しています。
このような歴史を踏まえれば、本改正についても一般社団法人を活用することで節税されるリスクがあることを、法律を作る財務省主税局は把握できたはずで、何故このような抜け道をふさがなかったか理解に苦しみます。
とりわけ、相続税の節税は制限されたとはいえ、現状においても資産家の資産管理法人として一般社団法人は多く利用されています。
となると、大口株主になりうるような、資産家の上場株式の管理は、むしろ一般社団法人を使って行うことの方が多いようにも思われ、この点からも一般社団法人を対象外とした理由は全く分かりません。
財務省主税局としては、法改正をしたという外形さえ作れば、面倒な会計検査院に対する責任を果たした、と考えているのかもしれません。
このような抜け穴の大きな改正については、近いうちにそれを防ぐためにまた改正が行われると考えられます。
中身のない改正に振り回されるのは納税者なので、立案者はもっと突っ込んだ検討をすべきでしょう。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。