2023年分の申告からスタートしている改正ですが、「証拠書類のない簿外経費への対応策」という規定があります。
これは、不正な申告を行ったり、申告をしなかったりした場合に適用される制度で、これらの場合には納税者の一定の資料や国税当局が行う反面調査で存在が判明しない経費のうち一定のものを、法人税や所得税の経費にしないとするものです。
不正な申告や無申告は許されるべきものではないため厳重な調査が必要になりますが、一方でこれらの申告に対する税務調査は国税当局にとって非常に労力がかかるものです。
特に労力がかかることの一つに、簿外経費と言われる経費の存在があります。
これは、文字通り帳簿に記載されていない経費を意味しますが、これらの経費についても事業に関する経費であれば、現状は法人税や所得税の経費として認められます。
特に、経費についても国税当局が立証する必要がありますので、帳簿に書いていない経費についても税務調査をし、その結果判明した経費については、国税当局は経費として認めなければなりません。
しかし、そうなると社会悪である不正な申告や無申告をした納税者が簿外経費を主張することで税金を下げることにもつながり、問題があることも事実です。
悪質な納税者であれば、架空の簿外経費をでっちあげて、国税当局の負担を大きくさせるようなことも行う可能性も指摘できます。
これらの点を踏まえ、本制度においては、売上原価や直接販売費などを除いた一定の簿外経費(間接経費)について、簿外経費を主張することを制限することされています。
具体的には、帳簿書類やその他の原始記録、そして国税当局の反面調査などで存在が判明しない間接経費については、原則として税金の計算上の経費と認められないとされています。
無申告など悪質な税務調査に従事し、簿外経費に係る税務調査の大変さが分かる私自身の経験からすれば、これは一理ある改正と思います。
その一方で、本制度の問題を指摘する声が非常に大きいことも事実です。
この理由として、無申告の納税者は、帳簿書類の保存がそもそもないことが挙げられています。
ストレートにこの改正を適用するとすれば、無申告者は帳簿書類がなく証明ができないため原則として間接経費がすべて認められず、膨大な税金が課税される恐れがあると指摘されています。
確かに、反面調査で判明すれば経費は認められるとされていますが、反面調査をするか否かは国税当局の判断になりますので、反面調査をしてもらえず、間接経費が一切認められない可能性はあり得ます。
こういう訳で、無申告に対しては非常に厳しい制度ができるという印象があります。
しかし、仮に無申告であったとしても、国税当局から調査の予告が入る前に自主的に期限後申告をすれば、法令上はこの規定の対象にならないとも解釈できます。
無申告はもちろん許されませんので、一日も早く申告するよう努める必要があります。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。