有効な節税として有名な短期前払費用については、それが「重要」な費用であるかが問題になります。
短期前払費用は、年払いの保険料や賃料について、支払ったタイミングで向こう一年分まで経費にできるという制度です。
これらの費用は企業において重要ではないため簡便に処理できる、という考え方で認められています。
法人税は事業年度毎に課税されますので、翌年度分は経費になりませんが、重要な費用ではないので区分せず、支払った金額の全額を経費にできる、という考えが短期前払費用の背景にはあります。
こういう訳で、「重要」と判断される費用はそもそも短期前払費用の特例を受けられないのですが、判例などにおいては、その基準として、短期前払費用とした費用の金額の多寡や売上に対する割合などで判断されることが通例です。
このため、金額的にどの程度までなら短期前払費用として認められるのか、よく質問を受けますが、確実な基準はなくグレーな話ですので断定はできず、ケースバイケースとしか言いようがありません。
なお、先日の裁決例では、2.5億円程度で売上に対する割合が約11%の賃料を短期前払費用とした処理について、巨額でありかつ構成割合も大きいことから、重要性が高く短期前払費用にならないとされました。
売上規模などは会社によっても違いますが、一つの基準として、対売上比で10%を超えるような場合は注意すべきかもしれません。
ただし、繰り返しですが絶対的な基準はありませんので、対応策としては金額的に大きいと思われる短期前払費用については、最低限押さえておくべきポイントを押さえた上で、最終的には国税当局と税務調査の交渉で落とす、という方向性となります。
ここでいう、押さえておくべきポイントですが、一つ目は経理方法です。先の裁決例において指摘されたことですが、短期前払費用を「特別損失」として経理したことが問題になっています。
「特別損失」は役員退職金や災害の損失など、臨時的・突発的な損失を計上する科目でイレギュラーなものであり、かつ金額的にも巨額になることが多いです。
このような科目に計上するとなると、イレギュラーという意味で重要性があると判断できますから、短期前払費用とすることは難しいとされています。
このため、短期前払費用を適用する場合には、勘定科目等の経理処理にも注意する必要があります。
次に、この事例の賃料は関連会社に対するものであったため、簡単に年払いに変更でき、変更してすぐに短期前払費用の特例を適用した、という点も重要です。
この点、本裁決においては「短期前払費用の適用要件に租税回避目的は関係ない」といった指摘もなされていますが、関連会社を利用し、かつ年払いに変更するというのはさすがにあからさまな節税で目立ちますから、慎重に対応すべきと言えます。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。
参考サイト
著書
引用元:短期前払費用と特別損失経理 – セブンセンスグループ – 経営・会計コンサルティング