前回、e-Taxの接続障害による令和3年度の確定申告期限の延長について解説しました。
復習すると、本来は国税庁長官が職権で行うべき対象者指定をすべきなのに、納税者一人ひとりが個別に申請する個別指定の対象にしているのです。
一見すると、同じ期限延長で内容は大きく変わらないように思われるかもしれませんが、後者は申請が必要になるため、申請を忘れてしまえば適用がありません。
当時、この申請は申告書の余白に書けば足りるとされていましたが、書き忘れのないように処理する必要があり、書かなければ延長されませんでした。
次に、実務上問題になるのは、青色申告特別控除の増額の処理です。
青色申告特別控除により、青色申告者が貸借対照表を添付して期限内申告をすると、最大55万円の控除ができます。
さらに、この期限内申告をe-Taxで行えば、さらに10万円控除額が増額され、65万円控除ができることになっています。
e-Taxによる期限内申告ができなかった当時、この65万円控除がどうなるか疑問が生じました。
この取扱いについて、国税当局によると、接続障害が生じたことによる期限延長を申請した上で、e-Taxをすれば65万円控除を認めるとされていました。
このため、仮に本来の申告期限である3月15日に間に合わなかったとしても、問題なく適用ができる、と解釈できます。
しかしながら、法律的にはそう単純ではありません。個別指定は、やむを得ない事情があって申告等が不可能な場合に期限延長が認められるものです。
このため、e-Taxの不具合で電子申告はできないものの、紙でプリントアウトして申告ができるのであれば、やむを得ない事情があるとは言えないため、個別指定は認められないことになります。
つまり、紙で申告できるのに、65万円控除という税制のメリットを受けるために、わざわざe-Taxで期限後に申告するとすれば、個別指定による延長の対象にしてはいけません。
この点、e-Taxの不具合を想定した対象者指定なら、e-Taxによる期限内申告ができないことを踏まえた制度なので、原則として問題にはならないはずです。
こういう訳で、個別指定による期限延長により、e-Taxの接続障害に対応しようとするのは、法解釈上は無理があります。
申告期限の直前の不具合で、対象者を指定するのは無理があると国税当局は考えたのかもしれません。
しかし、自分たちの不手際を隠ぺいする際にはこのような迅速な対応ができるのが国税組織です。
同様に、2021年末の電子取引のデータ保存の義務化の延長が思い出されます。
国税は改正の法令が2021年12月28日に出て、すぐに通達を公開しました。
このようなウルトラCができたのは、電子取引のデータ保存の義務化は国税庁の親玉である財務省主税局が、空気を読まずに作った悪法で、不手際以外の何物でもなかったため、一秒も早く隠ぺいしなければならないと頑張ったからです。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。