税法を解釈する場合、「総合勘案」という考え方が問題になります。
税法は非常に複雑な仕組みであり、数多くのグレーゾーンが生じます。
このグレーゾーンについて、具体的な取扱いを判断する場合には、さまざまな事実関係を総合して検討した上で、法律に当てはめる必要があります。
このような法令解釈を「総合勘案」と言います。
総合勘案の代表例は、給与と外注費の区分です。
給与になるか外注費になるか、その判断は、
①その仕事が他人で代替できるか
②その仕事において依頼主等の指揮監督を受けるか
③成果物を納品できなくても報酬を受けられるか
④材料などを自分で負担しているか
という4つの要素を総合勘案し、より近い方の区分に該当するとされています。
しかし、これらの要素を全部判断するとすれば、判断内容が多いため見解の相違も大きくなり、一義的にどっちになるか決まりません。
このため、往々にして税務署とトラブルになります。
こういう訳で、総合勘案が絡む場合にどのような対応をするべきか、税理士から相談を受けることがあります。
まず押さえるべきは総合勘案というのは、税務当局
も一義的に判断することが出来ないということです。
このため、総合勘案が絡む規定で税金を取る場合には、税務当局が攻めやすい要素だけを取り上げる傾向があります。
具体的に捕捉すると、給与と外注費の区分については、上記④の区分が重視されます。
この理由は、他の要素とは異なり、負担した材料の領収書などの証拠が残りやすいからです。
税務調査は納税者が自発的に提出する修正申告で終わらせるのが原則ですから、納税者を説得する必要があり、そのためには証拠が重要になります。
このため、証拠が残る④の区分が税務調査では問題になることがほとんどです。
言い換えれば、ここをきちんと固めておけば、税制上給与より有利になる外注費に当たると主張しやすくなります。
このため、総合勘案が絡む項目についての税務調査対策においては、どの判断基準で税務当局が攻めてくるのかあらかじめ予測し、その判断基準に対しては、予め集中して対策を取るのが有効になります。
税務署が狙うのは、「証拠が残る」判断基準ですので、各判断基準を検討しておく必要があります。
なお、ここでいう「証拠」については、領収書などの証憑だけではなく、取引先の証言など反面調査で入手できるものも挙げられます。
役員が退職したかどうか、その判断においては金融機関との折衝に退職した役員が出席したかが特に重視されます。
それは銀行を反面調査すれば分かるからです。
税務調査の事前対策として経理を強化すべきと言われますが、それと同様に、どの判断基準で攻めてくるかの予測も重要な事前対策です。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。