申告した税額が誤っており、納めすぎた税金を返してもらう場合、更正の請求という手続きを取る必要があります。
更正の請求の大前提として、
①法の適用誤りがある
②計算誤りがある
そのいずれかが必要とされています。
この①と②の要件が重要になるのは、税務上の計算方法に選択が認められる場合です。
例えば、AとBという二つの方法を選択して税金の計算ができる場合、Aを選択した後、Bで計算した方が税金が小さい、というケースは更正の請求ができません。
法律上Aを選択できますから法の適用誤りもないですし、Aの計算方法で計算している以上、計算誤りもないからです。
このように、選択が認められるケースは更正の請求が制限される訳で、実務上よく問題になります。
先日問題になったのは、消費税の納税義務に関する事例です。
消費税の納税義務は原則として前々期の売上が1千万円以上か否かで判断します。
ただし、例外として前々期が1千万未満でも、前期の前半(上期)の売上が1千万以上であれば、消費税の納税義務があるとされています。
しかし、これにも特例があって、上期の1千万の判断に売上に代えて、給与支払額で判断することもできるとされています。
結果として、売上と給与が共に1千万円以上である場合は当然納税義務がありますが、売上が1千万未満で給与が1千万円以上なら給与を選択し、売上が1千万円以上で給与が1千万未満なら売上を選択することで納税義務がある、とすることもできます。
こういう訳で、上期の判断には選択が絡みますから、売上と給与、どちらか1千万円以上の方を選んで納税義務があるとした後に、更正の請求で1千万未満のものを選んで納税義務がないため消費税を返して欲しい、といったことはできません。
実際のところ、この事例でも同様の結論が出ていますから、注意が必要です。
しかし、自分で申し上げて何ですが実はそれほど単純な話ではないのです。
この法律の趣旨を読むと、仕組みとしては売上と給与のどちらか一方を選択して納税義務があるかどうかを選択できる、というものを予定したものではありません。
それは、上期の売上と給与の両方が1千万円以上の場合に限って納税義務があるいう仕組みを予定したものなのです。
実際のところ、選択を可能にするなら、後日のトラブル防止のため何らかの手続きが必要とされることが多いのが通例です。
しかし、この規定については選択と言いながら特に税務署に手続きも不要とされています。
加えて、一般的に納税義務はない方が有利ですから、慎重を期すために売上と給与の両方が1千万円以上で判断するのが妥当に思います。
こういう訳で、審判所も選択と言っていますが、趣旨としては選択ではなく一択ですので、片方が1千万円未満の場合には、更正の請求の対象になり得ると考えています。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。