一昨年の税制改正ですが、令和4年度改正においては、資産の貸付けが主要な事業である場合を除き、貸付用資産について、取得価額が10万未満の即時償却や、20万円未満の3年償却が認められないことになりました。
この改正は、富裕層が節税で活用している、足場レンタルやドローンレンタルのスキームを防止するためのものです。
具体的には、1本あたり10万未満の足場や1個当たり10万未満のドローンを大量に購入することで、即時償却の適用を受けて購入年度に多額の損失を計上し、その損失とその年度黒字をぶつけることで節税を行うというスキームです。
なお、足場にしてもドローンにしても、その後レンタルして利用者から賃料をもらうことから、投資額の回収も見込まれています。
年々節税スキームが制限されている中、唯一生き残っていたと言っても過言ではないスキームでしたが、それも制限される訳で、今後ますます節税は難しくなると考えられます。
これだけ聞くと、非常に厳しいと思われますが、企業の将来を踏まえるといい面もあり、今後節税はますます難しくなることもあり、前向きに捉えざるを得ないと考えます。
というもの、このような節税スキームは非常に高額な投資が必要になるからです。
仮に本スキームで節税をしようと思えば、会社の利益に相当する額の足場やドローンを購入する必要がある訳で、その分会社の資金繰りを直撃することになります。
本来、このような資金は会社の成長のために投資すべきお金であるのに、目先の税金を少なくすることに使われるためその分会社の成長が阻害されることになります。
多少論点は異なるのですが、この点相続税の節税で、借金をしてアパートを建てるスキームをお考えいただくと、この問題がより分かりやすいと思います。
アパートを建てて相続税の節税したことはいいものの、その後賃借人がつかず資金が不足して借金が返せなくなる、という事態が現状問題になっています。
すなわち、節税は非常にお金がかかるものなのです。
加えて、単に足場やドローン、そしてアパートなどを買うお金だけでなく、このようなスキームをセットアップする事業者に対する報酬や、その事業者に対し税理士などが節税したいお客を紹介する紹介料も発生します。
実際のところ、この紹介料で大きくなっている税理士事務所も多くあります。
本来、会社の成長のためには、コストがかからずにできる最低限の節税のみを行って、必要とされる巨額の納税を行うことがベストです。
よく言われる話ですが、節税のために会社を犠牲にすることがないよう、この改正を機に税務戦略を考え直す時期に来ていると考えられます。
税務調査対策ノウハウを無料で公開中!
元国税調査官・税法研究者 松嶋洋による税務調査対策に効果的なノウハウをまとめたPDFを無料で公開中!ご興味のある方は下記サイトよりダウンロードください。
元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。