前回、電子取引のデータ保存の義務化の延期によって明らかになった税制上の問題の一つを指摘しましたが、今回はもう一つの問題、税制改正の解説についてです。
この義務化について、企業や納税者の対応が間に合わなかった原因の一つは、企業の税務をサポートする税理士の改正対応が遅かったことにあります。
税制改正は毎年12月に公開されますので、早ければそのタイミングで改正の解説などがなされますが、こと電子取引のデータ保存の義務化について、業界で話題になり始めたのは、国税庁が取扱いを公開した2021年7月くらいからでした。
それまでは特に話題にもならず、むしろ電子帳簿保存法は要件が緩和されて使いやすい制度になって喜ばしいなどと、全くの正反対の解説がなされており、その通りに考える専門家がほとんどでした。
本来、税制改正が公開される12月にきちんと内容を把握した上で、お客様に必要な対応を指示するのが税理士の責務ですが、税理士も忙しいため改正内容を正確に把握することは難しいです。
こういう訳で、12月には「どこよりも早い改正セミナー」が行われることが多く、そのセミナーを多数の税理士が受講しています。
このようなセミナーを行う講師は、短期間で税制改正を解説するという特殊性がありますので、とんでもない報酬をもらっていると耳にしますが、こんな報酬に見合う解説など基本していません。
単に、どこかからか国税の内部情報を仕入れた上で、税制調査会の資料を転載して解説するだけです。
困ったことに、電子取引のデータ保存の義務化は、税制調査会の資料では小さい字で書かれていましたので、このような重大な改正があることにも気づかないままろくに解説もせず、スルーされたのです。
なお、このような資料を公開するのは、そもそも著作権的に問題があるのではないかと思われます。
次に、近年は12月の改正内容の公表があり次第、税理士がブログなどで一般納税者向けに改正を解説することが多くありますが、この改正は税制改正大綱をろくに検討せず、単にコピペしただけのものが多いです。
困ったことに、税制改正大綱でも電子取引のデータ保存の義務化は1行で、税理士が苦手な法律の専門用語で簡単に書かれていたため、詳細に内容を検討しないとスルーしてしまいます。
単に、アクセスを集めたいだけの税理士は、「早い税制改正解説をした」という既成事実を作りたいだけで、コピペで済ませますので、本来周知すべき改正が周知されず、対応が遅れてしまったのです。
税制改正は早さがすべてと言われますが、この考え方も今回の問題の一つです。税制改正は中身が重要で早さは二の次ですので、今後の対応を再度検討する必要があります。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。