インボイス制度がスタートし、その対応で税理士はもちろん、経営者の皆様も大変な負担を強いられしたが、その次には電子データの電子保存の義務化がスタートします。
この義務化については、至る所でその問題点が指摘されましたが、そもそもは2022年1月からスタートが予定されていました。
しかし、到底その対応は無理ということで2年延期されたものですが、それでもまだ足りないということで、義務化されるにしても紙と一緒に保存することで要件が緩和されるなどの措置も設けられます。
この延期や要件緩和に対しては、歓迎する声が大きい反面、苦労して対応を準備してきた企業の担当者の中には、猶予されるならここまで急がなかった、と怒りの声も大きいです。
法律は国民の権利や義務を制限するものですから、本来はこのように簡単に撤回できるものではありません。
このような事情がありますので、従来、財務省主税局は法律を作り間違えるようなことをしても、時期を見ていったん決めたルールは変えられないとして、次の機会で改正をしていました。
しかし、今回は実質的に決めた内容を撤回している訳で、まさに日本の税制において前代未聞の状況が生じているということになります。
このような事態が生じた現実を踏まえた場合、現状の税制の問題が大きく二つほど見えてきます。
一つは、財務省主税局に税制を作る力がなくなりつつある、ということです。令和3年度改正で、いったん電子取引のデータ保存が義務付けたのですが、このような制度を義務付けるのであれば、当然のことながら会計ソフトを作るベンダーなどとも詳細に打ち合わせを行っておくべきです。
しかし、このような事績があったとは到底思えず、いつもの通り密室で税制を作ったとしか思えません。
実際のところ、とある会計ソフトのベンダーが、対応が間に合わないといった陳情をした、といった話もありました。
税制は政治家の利権などとつながりやすいものですから、基本的には密室で制度を作っています。
結果として、税制改正大綱が出るまで改正内容がよく分からない、といったこともよくあります。
しかし、経済活動や社会情勢が複雑になった昨今、民間の知恵を活用することなく密室で税制を作ることに限界が来ていることは間違いありません。
これに関し、近年は国税庁の通達改正でパブリックコメントが行われることが多くあります。
このパブリックコメントを通じ、税理士などの専門家や実務に携わる企業の担当者から有益な意見が寄せられ、結果として通達の内容がよくなるとともに、正しく解釈ができるよう、改正の趣旨も明確になっています。
民間の知恵を活用することは税制にとって非常に有益ですから、通達だけでなく、税法を作る力を失っている財務省主税局が作る法律などについても、広くパブリックコメントを行うべきと思われます(以下次回)
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。