実務上、その取扱いが明確ではなく、判断を悩ませる取引の一つにアーンアウト条項があります。アーンアウトはM&Aでよく使われる条項の一つで、買収先の会社の買収代金について、将来の利益状況などに応じ、その金額を増減させる条項を意味します。
企業を買収する時の金額については、会社の将来の利益を見積もるなどした上、DCFなどの所定の評価方法が理論上はあると言われます。しかし、未来は誰にも分かりませんので、理論上の評価金額が、本当に正しい買収金額と言えるのか疑問が残ります。
例えば、現状のコロナ禍については、過去、誰にも予測できなかったはずです。
となると、コロナ禍の前に買収した企業の価値は、コロナ禍を踏まえていないことから実際よりも高く評価されている可能性が大きいと言えます。
一方で、その逆に将来の利益が想定より大きい場合もあるはずです。この場合、売手企業にとっては、買収されたタイミングではもっと高い金額を買手企業に請求できたはずで結果として損をした、ということになります。
こういう訳で、将来の目標などに照らして買収金額を事後的に増減できれば都合がよく、とりわけM&Aの評価は将来状況で変わることから、アーンアウト条項が設けられることが多いのです。
ここで問題になるのは、M&Aで株を買収先に売った個人について、アーンアウト条項により追加で取得したお金がどの所得区分に該当するか、ということです。
株を売った、という点に着目すれば譲渡所得になるはずですが、譲渡所得は譲渡したタイミングで申告が必要になります。
しかし、アーンアウト条項による追加代金を取得するのは、譲渡してから数年経過した後になるため、理論的には譲渡した年分に遡って申告をやり直す、といった対応が必要になるはずです。
このような修正申告は、税務的にはイレギュラーですので、果たしてこのような処理を行う必要があるのか、疑義があります。
これに関し、最近、とある税務雑誌において国税の見解が示されましたが、そこでは譲渡所得ではなく原則として雑所得になると解説されています。
雑所得であれば、追加代金をもらったタイミングで申告すればよいので、上記の問題は生じません。しかし、その一方で譲渡所得より雑所得は税率が高いため、納税者にとっては不利な取扱いになります。
アーンアウト条項による追加代金も譲渡代金ですから、本来は譲渡所得が妥当と個人的には考えています。しかし、国税としては雑所得と判断している模様であり、譲渡所得で申告すると課税される恐れが大きいことから、慎重な対応が必要です。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。