数年前から、個人が注意すべき税務調査の論点として言われているのは暗号資産(仮想通貨)です。
周知の通り、その値動きは激しく多額の所得が生じる一方で、その譲渡による所得は雑所得に該当しますので、地方税を併せて最高税率55%というとんでもない税金が課税されることになります。
二年ほど前の話ですが、全国で50人と30社が総額約100億円もの申告漏れを指摘された、といったニュースが新聞紙面を賑わせていましたが、膨大な税金が課税されることもあり、申告漏れはまだまだ多いようにも感じます。
加えて、一般の納税者の方が不満を持つのは、ある暗号資産を別の暗号資産に交換するような場合にも所得税の対象になることです。
暗号資産を現金化したのであれば、その現金で所得税を納めればいいですが、現金化せずに他の暗号資産に変えたとしても、その暗号資産で納税はできませんので、何故所得税がかかるのか、といった怒りの声を聞くこともよくあります。
困ったことに、交換した暗号資産も大きく値下がりすることもある訳で、交換時には多額の利益が出たが納税のタイミングでは暴落してその暗号資産を現金化しても納税できないといった事態もよく生じますから、下手に暗号資産に手を出してしまうと、まさに税金に殺されるということにもなりかねません。
こういう訳で、暗号資産について何らかの節税ができないか、といった声を聞きますが、現状の制度で使えるとすると、税金の高い日本から国外転出する方法くらいでしょう。
暗号資産に限った話ではありませんが、国外転出してしまえば、日本の課税は大きく制限されますので、税目的で日本から出ていく富裕層も多くいることは周知のとおりです。
とりわけ、この暗号資産は国外転出と相性がいいと言われます。
というのも、上場株式などをもって国外転出する場合、その含み益に対して出国税が課税されることがありますが、国税から明確な見解は出されていないものの、暗号資産は出国税の対象にならないと言われるからです。
加えて、国外転出する際暗号資産を国外に持ち出し、国外の市場で売買すれば、原則としてその暗号資産の利益に対して日本では課税できないとも言われます。
国外転出した場合には、原則として日本で生じた所得に対してのみ所得税が課税されることになりますが、暗号資産を国外の市場で売却しても、これまた国税が断言している訳ではありませんが、それは日本で生じた所得にはならないと解されています。
こういう訳で、多額の暗号資産を持っていらっしゃる方には、どの税理士も国外転出を勧めていると思います。
ただし、そうなると日本の税収が減ることにつながりますから、値動きが激しいという暗号資産の性格に留意しつつ、納得した納税ができるような制度を国が作ることが期待されます。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。