相続税の申告で、必ず適用を考えなければならない制度の一つに小規模宅地の特例という制度があります。
この小規模宅地の特例は、被相続人などが居住したり事業の用に供したりしている宅地について、一定の要件を満たせば、一定の面積の範囲内で最大で80%その宅地の評価額を減額できるという特例です。
80%も評価が変わる話ですから、適正に適用しないと相続税に大きな差が生じることになり、適用ミスは税理士損害賠償の対象にもなります。
税務ではよくある話ですが、このような大きな節税制度については、適用要件が非常に細かくかつ複雑です。
私自身もよくこの制度について適用有無について質問を受けますが、致命的なミスをしやすい手続きがあります。
それは、申告期限で一部未分割であった場合の取扱いです。
小規模宅地の特例の手続きで重要なポイントが二つあります。
一つは、未分割の宅地については適用されないということです。
このため、申告期限までに分割されていない宅地は当初の申告ではこの適用を受けられません。
なお、一定の手続きをした上で、3年内に遺産分割が成立したような場合には、後日その適用を受けられるとされています。
次に、小規模宅地の特例の対象になる宅地が複数あった場合の手続きです。
先の通り、小規模宅地の特例には面積制限がありますので、それが複数あれば、どの宅地を選ぶか選択する必要があります。
ただし、小規模宅地の特例は適用を受ける宅地を相続した人がメリットを受けることになりますので、その選択上特例を受けない相続人は不利益を受けることになります。
このため、特例の対象になる宅地が複数ある場合には、それを相続したすべての相続人が、小規模宅地の特例の選択に同意した書類が必要とされています。
ここで問題になるのは、特例の対象になる宅地が複数あって、遺産分割が確定しているものと、遺産分割が確定していないものとがある場合です。
後者は未分割なので先の通り分割するまで特例を受けられません。
それに止まらず、未分割ということはその宅地を相続人全員が共有しているということも意味します。
そうなると、特例の対象になる宅地を相続人全員が持っていることになる訳ですから、遺産分割が確定している宅地について、小規模宅地の特例を受けようとする場合には、相続人全員の同意書が必要になります。
相続人間で争いがあるため未分割になる訳で、上記のケースでは相続人全員から同意書をもらう、というのは難しいです。
困ったことに、未分割のものについては一定期間の分割まで待ってもらえますが、遺産分割が確定しているものは待ってもらえません。
となると、同意書がないという理由だけで特例を受けられない場合が生じます。
このような問題が生じないよう、「争族」対策を早くから行う必要があります。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。