法人税で最も難しい分野の一つに、合併などの組織再編成に係る税制が挙げられます。
この税制は、平成13年度の税制改正で作られたものですが、内容が複雑なだけではなく、量も膨大です。
困ったことに、組織再編成を行うことで多額の税金を節税できる場合もあることから、実務で頻繁に目にすることが多く、そのたびに難しくかつボリュームの多い条文を慎重に読む必要があるため大きな手間がかかります。
組織再編成については、実際の法律に書いてある条文だけではなく、その条文が書かれた趣旨が重要になると言われます。
この趣旨を読み解く際、最も重要な資料は平成13年度改正の際、組織再編成を作った財務省主税局の担当者がとある研修会で述べた「講演録」と言われます。
この「講演録」については、その講演を行った担当者も随所で「素晴らしい内容」であると自画自賛しており、組織再編成に係る自身の論文等でよく引用しています。
このような事情がありますので、この担当者の方は、国側の代理人となった組織再編成に関する税務裁判においても、この「講演録」を引用して意見書を作成しています。
裁判所も実際に条文を作った者の意見は無視できませんから、この「講演録」を基に重要な判決を行いました。
その結果、法律ではないただの一個人の講演内容ですが、組織再編成を行う税理士であれば、必ず参照しなければならない資料になっていると言えます。
しかし、この「講演録」ですが、組織再編成を行う上で必携の資料であるにもかかわらず、現状絶版となっており入手が難しいです。
幸い、東京の大崎にある税理士会の租税図書室には原本がありますので、それをコピーすることができますが、東京に事務所がある税理士は別にして、地方で活動する税理士の場合、上京するのも大きな手間ですから入手困難と言えます。
このため、あまり問題視されませんが、組織再編成の税制については、それに必要な資料の入手が困難という、大きな欠陥があると言わざるを得ません。
この点、実際に、組織再編成の税制を作った先の財務省主税局の担当者のセミナーを聞くと、組織再編成については条文をきちんと作っているので、法律をしっかりと読めば内容が分かる、といった解説がなされています。
しかし、その発言とは裏腹に、組織再編成の実務上、「講演録」を用意していても、処理に迷うことが多くあります。
とりわけ、組織再編成は大きな節税になる反面、その処理を間違ってしまえば多額の税理士賠償訴訟につながりますので、現状は税理士にとっては非常に酷な状況であるとも言えます。
こういう訳で、著作権の関係もあってなかなか難しいかもしれませんが、少なくともこの「講演録」については、国税庁のホームページにおいて無料で適宜引用できるようにする必要があると考えています。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。