国税OBからすれば非常に違和感を覚えるのですが、税務上問題になる給与と外注費の区分について、外注費としての契約書を用意すれば税務調査で認められる、と考える税理士先生が非常に多くいらっしゃいます。
税務上、給与より外注費の方が有利ですので、給与になりそうな個人への支払いを個人事業者に対する外注費とすることがよく行われますが、その判断は実質判断になる訳で、契約書でどうにかなる問題ではありません。
ここでいう外注費としての契約書ですが、何件か拝見しますと、その内容は非常に露骨なものが多いです。
例えば、外注費の要件としてよく言われることとして、その業務について他の第三者に仕事を任せる(再委託)ことが可能であったり、業務で必要になる道具や材料について、支払者ではなく自己負担したりすることが挙げられます。
困ったことに、これらの要件についてそのまま契約書の文言に書くだけで、外注費として税務署から認められると考えているようなのです。
本連載でもよく言いますが、国税は実態を見るのであり、契約書についてはあまり見ません。
正確には、国税に都合のいい内容が書いてあれば見るのであり、不利な内容が書いてあればそれを無視するのです。
外注費として認めさせるような内容が書いてある契約書は当然後者ですから、そもそも税務調査では無視されるのがオチです。
このあたり、税務調査を行ってきた人間であれば常識として理解しているのですが、税務調査の経験がない自称税法研究者などが、過去の裁判で示された基準を前提に、こういう要件を満たす契約書なら問題ないなどと高らかに宣言するので困ります。
これも本連載でも指摘したことであり、国税にいた人間なら常識ですが、裁判と税務調査は全く別物です。
裁判官と違って法知識はなく、かつ厳格でもない調査官は、少々法律に違反していても税額が大きく変わらないならその是正を要求しません。
一方で、その逆で法律上問題なくても多額の税金を取れる可能性があるなら納税者や税理士にプレッシャーをかけて超法規的な解釈で課税しようとします。
給与と外注費で税金は大きく変わりますから、裁判例を前提に契約書を作っても、調査官はそれを無視して何とか税金を取ろうとするだけの話です。
こういう訳で、このような無意味な契約書を作るよりも、出来るだけ外注費と見られるような実態を整えたり、税務調査で国税の追及をうまくかわす交渉術を身に着けたりする方が、外注費と認めさせる上でははるかに効果的です。
国税経験のない試験組の税理士はこのあたりの感覚はなかなか分かりませんが、困ったことにそこに付け込んで、「この契約書で給与外注の税務調査から顧問先を守れます」などと、高値でひな形を税理士に売りつける悪質な業者が実際に存在しますから要注意です。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。