前回、令和5年度改正による相続時精算課税の贈与について解説しましたが、現時点で言われる賢い相続税対策としての生前贈与は、
1 親からは相続時精算課税の贈与
2 祖父母からは贈与税の暦年課税の贈与
を受けるというものです。
とりわけ、令和5年度改正においては、暦年課税の贈与の持戻し計算の期間が3年から7年に延長されますので、暦年課税の贈与を賢く行うのであれば、暦年課税は孫への贈与を中心とするべきです。
実際のところ、youtubeなどでは多くの専門家が、相続時精算課税と暦年課税の贈与をこのような形で使うことを奨励しており、少なくとも改正がスタートする令和6年以降は、相続時精算課税の贈与が飛躍的に増えると見込まれます。
しかし、相続時精算課税にはリスクがいくつかあります。
一つは、相続時精算課税は撤回できないということです。
相続時精算課税は相続と贈与を一体で考える制度ですので、年間110万までの贈与が相続時にも非課税になる、というのは非常に違和感があります。
理論的に正しくない制度は、いろいろな歪みを生じさせますので、税制改正で見直されることがよくあります。
このため、相続時精算課税の基礎控除は、将来的に見直される可能性があると個人的には考えています。
仮に基礎控除がなくなれば、相続時精算課税を辞めたいと思うでしょうが、過去のすべての贈与と相続を一体で考えるのが相続時精算課税ですので、いったん選択すると撤回できないと法律で規定されています。
となれば、将来の税制改正により基礎控除はなくなるが相続時精算課税は辞められない、といった不利益が発生する可能性があります。
むしろ、このような状況を作るために、過渡的な対応として納税者に有利な相続時精算課税の改正を令和5年度改正で国は行ったようにも思われます。
次に、相続時精算課税はそれを選択した後の贈与はすべて、相続財産として加算される点にも注意しなければなりません。
暦年課税の贈与では持ち戻し計算される期間が短いため、仮に贈与税の申告が漏れたとしても、現行では贈与税の時効である6年間経過すると相続時に課税されることはありません。
しかし、相続時精算課税では加算される期間が相続税の時効である被相続人である贈与者の死亡日から5年となり、数十年前の贈与税の申告もれ財産についても、相続財産として申告する必要が生じます。
言い換えれば、相続時精算課税を選択すると税金の時効がほぼなくなる、と言っても過言ではありません。
とりわけ、この点は名義財産について問題になると考えています。
名義財産は被相続人の財産として相続税の対象になるか、それとも被相続人が贈与した名義人の固有の財産になるかの判断について税務調査で揉めます。
後者なら相続財産にはなりませんが、相続時精算課税なら贈与財産にも相続税が課税されますので、どちらの場合も課税されます。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。