前回も解説した、マンション販売業者の消費税に関するムゲンエステート事件ですが、納税者は高裁で裁判を終了することとしたものの、国税は最高裁まで争う意向にようです。本日2月9日は最高裁で弁論も開かれると言われています。
裁判の場合、当事者となるのは「国税」ではなく「国」ですが、本件では「国税」という組織の在り方に大いに疑問が残りますので、敢えて「国税」と表現します。
簡単にムゲンエステート事件を振り返りますと、従来は納税者有利に消費税の条文を解釈していた国税が、突如として納税者不利に解釈を変え、多額の消費税を追徴したという非道な課税がこの事件の背景にあります。
先の高裁判決では、従来の納税者有利の解釈が法律的には誤りで、本来は納税者不利の解釈が正しいとしながら、解釈を変えたという不手際が国税にはあるので、過少申告のペナルティである加算税を課税するのは違法である、といった判断がなされています。
高裁判決の内容は至極まともなので、納税者はこれ以上国税と争わない意向を示したのですが、国税は加算税を取れないとことについても不満なようで、加算税を課税できるよう最高裁で争うようです。
加算税は過少申告という「ミス」に対して課税されるものですが、今回は納税者有利の解釈をしていた「国税の指導」に従って過少申告になったものですから、ミスではありませんので加算税を課税するのは不当以外の何者でもありません。
こういう常識的な解釈が成り立つことを国税も理解しているからこそ、偽証が許されない司法の場で、国税は「解釈変更をした事実はありません」と偽ったり、解釈変更した証拠が出されてどうしようもなくなると、「税務雑誌などを見れば解釈変更は分かるから、問題ない」と開き直ったりしているのです。
社会常識からすれば、加算税以外の追徴した消費税本税についても納税者に返還すべきと考えられますが、その本税部分の課税については問題ないとされている訳で、これ以上何を望むのかと言いたくなります。
おそらくですが、国税はムゲンエステート事件に類似した強引な課税を何件も行っており、それらについても裁判が係争していますので、ムゲンエステート事件で加算税が取り消されるとなると、他の事案でも加算税を返す必要が生じる可能性があることを懸念していると考えられます。
若しくは、「誤った課税をしない」という国税の権威をアピールしたいのでしょうか。残念なことに、こんな権威はすでに失墜していますが。
このような悪質な上告は、社会通念としても法解釈としても到底許されるものではないため、最高裁では国税に厳しい判断がなされると予測しています。
あまりにも悪質ですから、最高裁が怒って本税も返せ、と判断されないことを老婆心ながら祈るばかりです。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。