ここ数年で税理士業界において最も話題になっている裁判は、ムゲンエステート事件と言われる裁判です。
この事件は、マンション販売業者の消費税が問題になったものです。
従来、マンション販売業者が中古のマンションを仕入れて売る場合、その仕入れに係る消費税はその全額が売上に対する消費税から控除することが出来ると国税が解説していました。
しかし、平成17年頃、突如国税はその見解を変え、仕入れた中古のマンションに入居者がいて、そこから賃料収入が発生していれば、その仕入れに係る消費税については、一部しか消費税を控除出来ないと言い出しました。
結果として、マンション転売業者の大部分が国税から不当な課税を受けることとなり、多数の類似した裁判が行われることとなりましたが、その最初の事例がムゲンエステート事件です。
この事件について、先日高裁判決が行われました。
判決内容は、消費税の控除は制限されるものの、見解を変えておきながら、当初申告した税額が少ないために課税される加算税というペナルティーを国税が上乗せで取るのはけしからんとし、加算税についてのみ取り消されました。
この点、私が指摘してきたのと全く同じ結論で、税法を知らない裁判所も、ようやく正しい判断をしたと思います。
このマンション転売業者の消費税問題に関しては、高名な国税OB税理士や著名な弁護士事務所が、突如として納税者不利に見解を変えた国税の不当性を訴えて、加算税以外の消費税本税についても取り消すべきである、と主張しています。
そんな主張が認められた裁判も先日ありましたが、きちんと条文を読めば、この裁判の結論は誤りで消費税の控除が制限されることは明白です。
国税に非があることは誰の目にも明らかですが、非道な課税処分を行う国税の不当性の問題と、消費税法の正しい解釈という法律論はしっかりと分けるべきです。
このため、加算税は勘弁してあげる位の結論が妥当しか言いようがありません。
実際のところ、本件と同様に、国税が突如納税者不利に見解を変えた、ストックオプションの税務訴訟でも、今回の高裁判決と同じ判断で加算税だけ取り消されています。
こういう訳で、現在も係争している、本件と類似した他の裁判例でも、今回の高裁判決と同様の判断がなされると思われます。
ところで、今回の高裁判決において、国税は見解を変えたことについて、「平成17年頃からの税務雑誌を見れば(見解が変わったことは)分かる。」などとヌカしているようです。
税務雑誌など専門家でないと見ませんし、平成17年頃の事例はマンション販売業者に対するものではありませんので、こんな指摘は戯言としか言いようがありません。
このような低レベルの戯言を平然とのたまって責任を全く取らないのが国税組織ですから、国税の指導を信用するのは非常に危険なのです。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。