「税務署の調査官のレベルが低下した」と言われる昨今ですが、その現状を如実に表すこととして、調査官が税務調査中、会社や税理士を暇にしていることがあります。
先日の税務調査も、調査官は帳簿や請求書を見ているだけで税務調査をした気になっているのか、担当した調査官からは何も質問や指示を受けずにただただ暇な時間を過ごさせていただきました。
調査官は上司へ復命する際、さぞかし「頑張ったけど何も問題みつかりませんでした。」といった復命をして、事実を仮装した話をしているのだろうと思います。
現職時代を振り返りますと、税務調査について、「税務知識は要らないので一生懸命調査先の話を聞くこと」
「税理士に口出しさせないよういろいろと指示をすること」この2つを確実に行うよう指示されていました。
このため、今の税務調査のように、帳簿や資料を見る時間など私の現職自体にはほとんどなかったと思いますが、国税組織の現状として、税務調査実務を知らない人間がゴマすりと縁故で出世することもあって、正しい税務調査スキルを伝えていないのが現在の国税の状況なのでしょう。
特に驚かされるのは、納品書などのサンプルを要求しないことです。
例えば、売上について検討する場合売上の数字は何らかの根拠資料を基に計上しています。
その根拠資料が銀行の預金通帳なら、預金に振り込まれる金額を取引先に通知するため、請求書などの資料を作成するはずです。
請求書を作るということは、納品事実が必要で納品書も作るでしょう。
このように、根拠資料を遡っていくと、会社のミスや不正が明らかになっていきます。
となった場合、根拠資料について具体的なイメージを持つため、話を聞きながら、会社で作っている資料をサンプルとして提示してもらうと都合がいい訳で、このことは税務調査の基礎中の基礎として、現職時代には直属の上司から何回も指導を受けました。
しかし、近年は調査官からサンプルを要求されることはありません。となると、そもそも拙い調査官の知能では、会社の取引を十分に理解できていないはずで、結果として見つけるべき会社の不正取引などもその多くが見過ごされていると思われます。
現職時代には、税務知識がないからこそ真摯に納税者の話を聞くというスタンスの優秀な調査官が多かったですが、度重なる国税の不祥事や税務調査手続き法制化の影響などで、国税に対する批判が高まっていることもあって、きちんと仕事をしているという「体裁」を整えることだけにフォーカスしているために、こんな不十分な税務調査が行われると考えます。
このような問題提起をすると、国税が税務調査を厳格化しようと考えて困るのではないか、といった見方をされる方もいらっしゃると思います。
しかし、国税の幹部職員は事なかれ主義なので、現状に問題意識を持つことなどありません。
このため、今後もますます、ぬるま湯の税務調査が増えると思いますので、余裕をもって税務調査に対応しましょう。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。