売掛金の回収が不可能である場合などに認められる貸倒損失について、税務調査では非常に厳しい対応がなされます。
問題になる「回収が不可能」という解釈について、税務署は非常に厳しく、少しでも回収見込みがあるのなら貸倒損失を原則として認めないからです。
このような事情を踏まえ、税理士向けのノウハウとして、貸倒損失を認めさせる書面セットといった商材を販売している会社があります。
この書面があれば税務調査も安心と謳っている訳ですが、貸倒損失は原則として書面で決まらないので、はっきり無意味です。
税務上のルールを確認しますが、貸倒損失は、
① 会社更生法などの法律で債権が強制的に切り捨てられる場合などに認められる「法律上の貸倒れ」
② 売掛金などの一定の債権について1年以上取引がない場合に認められる「形式上の貸倒れ」
③ 債権の回収が不可能であると判断できる場合に認められる「事実上の貸倒れ」
の3つからなります。
このうち、①は要件に該当すれば原則として無条件に認められますし、②は1年以上取引なし、というシンプルな要件で認められますので、書面の有無は基本的に関係ありません。
加えて、最後の③は回収不能かどうかの判断が問題になりますが、それは書面といった形式というよりもむしろ、債権回収の努力はどうだったのか債務者の現状の資産状況はどうなのかといった実質判断が重要です。
督促や債務者の財産に対する調査などもろくに行っていなければ、内部で作った稟議書のような書類で、「この債務者に支払能力はないと判断できるため、貸倒れとして処理をする」と形式だけ揃えても、税務署は全く納得しません。
こういう訳で、書類を揃える実益は大きくなく、高値で「貸倒損失を認めさせる書面セット」を購入する実益は全くないと思われます。
貸倒損失の話だけではありませんが、税務署の実態や税務調査実務が分からない税理士は、書面揃えればグレーな取引でも税務調査は大丈夫と勘違いしがちなので注意が必要です。
まずやるべきは、実質を整えることなのです。
なお、矛盾するように聞こえるかも知れませんが、貸倒損失の中でも書面が決定的に重要な場合があります。
それは、債権放棄をする場合です。
債権放棄については、国税のルールで必ず「債権放棄の通知を書面で送る必要がある」とされており、口頭で債務免除の旨を伝えたものの、書面を送っていないという理由で貸倒損失が認められなかった事例もあります。
ただし、この債権放棄の通知の書面については、インターネットに無料でひな形が掲載されていますので、それを使えばまず問題ないでしょう。こういう意味からも、高い料金を支払って不必要な書面セットを購入する実益は100%ありません。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。