半分経費になる生命保険を積み立てて退職金の原資とする、といったことを行う会社は多いですが、実務上積み立てた生命保険について、どのタイミングで収益に計上すべきか問題になることがあります。
これについては、税務署の内規で保険会社から保険金の支払通知を受けた日に収益計上するべきと解説されています。
このため、保険事故が発生した日や、保険会社に保険金を請求した日、そして保険金が実際に入金された日に生命保険の保険金を収益に計上することは間違いですので注意してください。
この取扱いはよく知られていますが、過去の裁決事例で、保険金収入と損害を個別に対応させるべき、とした事例があります。
ここでは、災害などに備えて資産に損害保険を付した場合、その災害などの損害と同時に保険金の支配請求権が確定するため、損害と同じタイミングで保険金を収益計上するべき、と判断されています。
両者の違いとしては、生命保険と損害保険という保険の種類の違いが挙げられます。実際のところ、損害賠償金に関する通達の解説書の記述ですが、損害保険契約の保険金については、契約に基づいて支払われるものであらかじめ予測することが可能であること、そして保険金について支払いを受けられないことは稀であるため、その保険金の収入と補填される損害との対応関係が必要になると解説されています。
このように、同じ保険でも、その種類によって収益計上するタイミングが異なりますので注意が必要です。
それに止まらず、損害保険については、相続税の計算においてもこの収益計上と同じような考え方をするため、申告誤りがないように注意する必要があります。
一例として、東京税理士会の相談事例で取り上げられていた事例があります。
この事例においては、住宅の火災が発生し、その火災の1週間後に父が亡くなって、住宅に対する損害保険の保険金が支払われた場合の課税関係が解説されています。
ここでは、支払われる具体的な保険金額には鎮火後の状況によって確定することから、鎮火後既に保険金請求権が発生していたと考えられるので、この場合は損害保険の請求権を相続財産として相続税の申告に含めるべきと解説されています。
法人税も相続税も同様の考え方をしますが、権利確定したものは収益ないし相続財産として計算するという考え方があります。
権利確定と聞くと、「請求」を思い浮かべることがほとんどで、実際のところ生命保険はこれが基準となります。
しかし、こと損害保険は「請求」ではなく「資産の損害」の時点が問題になりますので、生命保険と混同することのないよう、注意する必要があります。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。