平成23年度改正で、「当初申告で所定の明細書を添付しない限り、特例を適用しない」という要件(当初申告要件)を求められる特例が少なくなったため、問題になることは減りましたが、未だに当初申告に明細書の添付が必要になる特例について、その添付を忘れてしまった、という相談を受けることがあります。
困ったことに、現状も添付を要請される制度は、節税額が大きいことが通例ですので、明細書の添付漏れというケアレスミスは、税理士にとって致命的なダメージとなる場合があります。
話を戻しますが、この相談に対する回答は一つで、税務調査が実施されるまで放置した上で、最終的には国税と交渉する、ということです。
明細書の添付忘れというのは誰の目にも明らかなミスですので、申告期限を過ぎてしまえばそれをリカバリーする方法はありません。
この点、対国税という観点からは、税務調査で発見されれば特例を原則として否認されるでしょうし、対納税者という観点からは、税理士賠償訴訟を提訴される可能性があります。
このため、国税に見つからないように祈るしかありません。
このように申し上げると、今からでも明細書を出した方がいいのではないか、といった質問を受けるのですが、申告期限後に税務署に明細書を出せば、後日提出した明細書が目立つため、税務署から添付もれとして特例を否認される可能性が大きくなります。
法律的にも、後日提出は不可能ですから、目立つ行動をとるべきではありません。
少し脱線しますが、国税のシステムには申告書のすべてのデータを打ち込んでいる訳ではありません。
特例の要件である明細書の有無については、原則として入力対象になっていないと考えられます。
税務調査先の選定は、基本的には決算書の変動など、国税のシステムに入力される項目をベースに行いますので、明細書の添付がないことをもって、即、税務調査に入られるということは原則としてありません。
実際のところ、調査が来ないまま時効を迎え、結果としてお咎めなしになった、ということは実務ではよくあります。
こういう訳で、明細書の後日提出は避けるべきで、万が一国税が見つけてしまったらその指導に従うと、腹をくくっておいた方が望ましい結果になります。
実際に税務調査が実施されたとしても、担当する調査官にもよりますが、場合によっては税務調査中に明細書を出すことで許してもらえる、といったこともあり得ます。
もちろん、明細書の添付を忘れないことが最も重要で、そうならないよう、会計事務所の業務フローを見直すことが必要です。
ここまでやっても生じてしまったミスについては、最終的に腹をくくって、神頼みで乗り切ることとしましょう。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。