本連載でも指摘しましたが、個人の事業所得者は、法人成りのタイミングで税務調査が実施されることが多くあります。
法人成りをするということは、個人事業を廃止するということですので、国税の個人課税部門から法人課税部門に管理が移転することになります。
こうなると、個人課税部門は税務調査の機会がなくなり面白くないので、最後の総決算として税務調査をすることが多くあります。
このような事情がありますので、国税はどうやって法人成りを把握しているか、よく疑問を寄せられます。
これは大きく分けて二つあり、一つは個人の事業廃止届出です。
事業廃止届出をご覧いただくと、「廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合」という欄があり、細かく設立法人の情報を記載することになっています。
もう一つは法人設立届出書です。
ここでは設立形態として、「個人企業を法人組織とした法人である場合」という欄があり、個人で申告していた所轄税務署とその税務署における整理番号を記載することが求められています。
所轄税務署と整理番号が分かれば、国税の管理は非常に用意ですので、法人成りしたことをすぐに把握されることになります。
ところで、事業廃止届出書にしても、法人設立届出書にしても、その届出書に記載すべき内容は法律で決まっています。
法律を読んでいただくと分かりますが、法人成りした事績などを書くことは求められていません。
言い換えれば、これらの事項については、国税が納税者に自発的な協力を求めているにすぎず、仮に記載がもれていたとしても、法律上の問題は生じないと考えられます。
このことを踏まえると、法人成りしたとしても、これらの届出書における法人成りに関する事項を空欄にしておいた方がいい、という結論になります。
こうすれば、国税としても法人成りした事実をおいそれと把握できず、個人課税部門から税務調査される可能性を減らすことができると考えられます。
実務で意識することは多くありませんが、原則として申告書や届出書などは様式を国税庁が作成していることもあって、気づかないところで国税にとって都合のいい情報を入手するようなトラップが仕掛けられています。
法律で義務付けられる記載事項は当然書くべきですが、それ以外のことは記載する必要はありません。
このようなトラップに引っかかることのないよう、申告書や届出書の記載内容としてどこまで求められているか、法律を逐一参照することも重要になります。
税務調査対策ノウハウを無料で公開中!
元国税調査官・税法研究者 松嶋洋による税務調査対策に効果的なノウハウをまとめたPDFを無料で公開中!ご興味のある方は下記サイトよりダウンロードください。
元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。