制度創設時から、審査が甘すぎるという批判があった持続化給付金について、予想通りその不正受給等が報道などで指摘されています。
そのうち、国税OB元税理士がかかわった事例については、国税OB税理士制度の問題点も明らかにしています。
この元税理士は、自分の親族や事務所のスタッフの親族などを個人事業主と偽るなどして、少なくとも1億円もの不正受給をしたと報道されています。
腹立たしいことに、不正受給した給付金を事務所の慰安旅行の費用等に使っていたようで、到底許せる話ではありません。
ここで注目したいのは、このような行為を行った税理士が、国税OBであることは決して偶然ではないということです。
企業の不正を見つけると言いながら、その実税務署では裏金を作っているなど、いい加減な国税組織にいると、多少法令違反しても問題ないと思うようになります。
このような風土で育ったので、この元税理士は国を甘く見たのでしょう。
このように、国税OBの中にはコンプライアンス意識に乏しい者がいますので、やはり彼らに税理士という法令順守を仕事とする資格を付与してはいけないのです。
次に、不正受給と疑われていた、競馬の調教助手などの持続化給付金の申請の問題について考えてみましょう。
この申請については、それをサポートし、成功報酬をもらっていたという大阪の税理士についても大きな批判が寄せられています。
背景には、調教助手は賞金等の関係で月によって収入が大きく増減するという事情があります。
持続化給付金は原因に関係なく、任意の月の売上が昨年より減っていれば申請対象になりますので、原則このようなケースも対象になります。
このため、今更になって「コロナ禍で売上が減った訳ではないため不正受給」であると言われても、持続化給付金の申請要件は原因を問わないものですから、何ら問題もないと考えられます。
このくらい適当な制度にしても、早急な給付を国が優先させた制度論の話であり、不正受給ではありません。
持続化給付金についてこの税理士が成果報酬を取ったり、コロナ禍の影響がない調教助手が持続化給付金を貰ったりしたことは責められても仕方ありませんが、それは不当であって違法とは言えないでしょう。
ただし、これに関連して一つ大きな問題があります。それは、給与と事業の区分です。持続化給付金は事業者が対象で、給与所得者は原則対象外となります。
このため、調教助手などは給与所得者なので持続化給付金を申請するなんてけしからん、といった指摘があります。
しかし、給与と事業は実態で判断されるという税務の常識を踏まえると、解釈によっては調教助手も事業者と見ることもできます。
このあたり、本来は暇な国税職員を使うなどしてきちんとした審査をするべきであり、それをしなかった国の責任はやはり大きいと考えます。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。