相続税の税務調査では、名義預金が問題になります。
家族名義の預金口座であっても、被相続人の口座と同視できる場合には、被相続人の財産として相続財産に含める必要があります。
名義預金に該当するかどうかは、預金の出捐は誰か(出捐者)預金の管理は誰が行っていたか(管理運用状況)利息を受け取る者は誰かそして生前贈与があったのかといったポイントを総合的に見て判断することになります。
実務では、これらの要因の中でも、特に出捐者と生前贈与、そして管理運用状況が重視される傾向があります。
前者については、被相続人がお金を出していれば、名義人に対して生前贈与をした事実関係がない限り、理論上名義財産に該当します。
このため、生前贈与をするのであれば、贈与契約書を作成しておくことが重要と言われます。
後者については、名義財産の典型は被相続人が親族の名前を使って開設した預金で、その管理を被相続人が自分で行っている場合です。
このため、名義人が預金を管理せず、被相続人が管理していれば原則名義預金となります。
ここでいう管理ですが、脱ハンコという流れなので今後は変わるかもしれませんが、現状は預金に係る銀行印の管理を誰が行っていたかが重視されます。
このため、名義預金に該当するとされる税務調査に対しては、これらの点から反論をしていく必要があるのですが、出捐者や生前贈与については、なかなか反論が難しいです。
出捐したタイミングはかなり前で当時の記録がないとか、生前贈与したはずだけど贈与契約書を作っておらず、かつ基礎控除以下だったので贈与税の申告もしていない、といったことが実務では散見されるからです。
相続税の調査に備えて記録を残しておく必要があるとよく言われますが、実務ではこのような記録がない方がむしろ一般的です。
こういう訳で、多くのケースでは管理運用状況で反論することが多いという印象があります。
相続開始の直前までの運用状況が問われるので、記録や記憶に乏しい、といったことはあまりないので、
本当に名義人が管理していれば、その旨主張して反論できます。
ただし、一点注意が必要です。
それは、預金の名義人が被相続人の配偶者である場合、配偶者が管理運用していたとしても、被相続人の名義財産にならないという反論の決め手にはならないということです。
判例でも明示されていますが、夫婦間では、夫の預金を妻が管理することは不自然ではないとされているからです。
このため、配偶者名義の預金に対しては、管理運用状況以外の反論を用意しなければなりません。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。