以前、非上場株式を譲渡した場合の時価算定について、注目すべき最高裁判決がなされました。この最高裁判決では、通例となっていた、非上場株式の時価評価について定められた、国税の通達に疑義があったため争われたものです。
この最高裁判決は、最終的には国が勝っていますが、この判決を踏まえ、通達をより分かりやすくする必要がある、ということで国税は通達の改正を行いました。
この通達の改正の際、国税はパブリックコメントを行い、広く通達の改正案について意見募集しましたが、その意見募集に対する国税の回答内容に対し、従来の通説を不利に覆す内容が含まれていました。
専門的な話になるため詳細は割愛しますが、大・中・小に分けられる会社の規模に応じて計算される「斟酌率」という割合が問題になっています。
従来、国税の通達ではここまで明確にはされていなかったものの、一定の株主はこの斟酌率を実態に関係なく小会社として計算するべき、と言われていました。しかし、今回のパブリックコメントで国税は、「斟酌率は会社の実際の規模で判断する」と回答しています。
斟酌率を実際の規模で判断するとなると、従来の通説の計算よりも株価が大きく評価されますので、税負担の増加につながります。
困ったことに、国税は先の取扱いについて、(改正前の通達も含めて)通達を読めば内容は明らかである、と回答しています。
国税の回答を前提とすると、斟酌率の計算の通説がそもそも間違っていた、ということになりますから、過去の株価評価も間違っていたということになり、この国税の回答の通りの計算を行う必要があって遡及的に課税されるのではないか、といった疑問が生じています。
この点、改正した通達を用いて遡及的に課税した課税処分が違法とされた最高裁判決があるため、原則問題にならないはず、といった指摘もありますが、この指摘は個人的には楽天的過ぎると考えます。
大きな問題になっている販売用マンションの消費税の裁判などを見ればわかる通り、国税は見解を変えた事実を隠蔽して、遡及的に多額の税金を課税するという卑劣な行為を行う組織でもあるからです。このような組織ですので、最高裁判決など関係ないなどと無視して、遡及的に課税する可能性はゼロではないでしょう。
とりわけ、販売用マンションの消費税の裁判と異なり、斟酌率の取扱いについては、ただ一般的に言われていた通説が違う、ということですから、国税が何らかの見解を示したにもかかわらず、その見解を変えた、という訳ではありません。
となると、国税が遡及的に課税したとしても、その非を問うのは非常に難しいと考えられます。このような事情がありますので、国税には慎重で納税者に配慮した処理をお願いしたいと思います。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。
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著書