税務調査の手続き法制化が実現して税務調査がやりづらくなったこともあって、近年は税務署がお尋ね文書を送って申告内容を確認するといった処理も増えてきました。
このお尋ね文書は、納税者の任意の協力を求める行政指導の一環で行われるので、回答義務はありません。
ただし、回答しないと調査が行われる、といった都市伝説もありますから、多くの納税者はそれを無視することなく回答しています。
よく言われる話ですが、税務署の実務としては、回答した者の回答内容を見て、税金が取れそうなら、原則として税務調査に切り替えて税金を取るという後出しじゃんけんです。
税務調査にされると加算税というペナルティーも課されて不利益が大きくなりますが、税務署は全く配慮しません。
一方で、お尋ね文書に回答があったかどうか、税務署の管理は甘いので、回答しなければ特に目立つことなく税務調査が行われない、といった事態が起こります。
慎重な判断が必要ですが、回答しないか、若しくは回答するにしても加算税が課税されないよう修正申告をしてから、というのがお尋ね文書に対する正しい方法になります。
とりわけ、近年は回答のリスクが非常に大きくなっていますので、回答するなら細心の注意が必要です。
相続税の相続財産の内容に関するお尋ね文書に対し、相続財産の記載もれや虚偽記載がある場合、重加算税の対象にするという処分が多くなされているからです。
税務署からすれば、お尋ね文書に正しい内容を書かないのは、財産を隠して税金をごまかすことと同じ、という理解なのでしょうが、このような考えはさすがに無理があります。
上記の通り、お尋ね文書に回答するかどうかは納税者の任意である以上、どこまで協力するかも任意ですから、仮に記載漏れや虚偽記載があったとしても、それを申告すべき相続財産の隠ぺいや仮装にあたる、と判断するのは無理があります。
実際のところ、お尋ね文書に基づいて重加算税を課税した事案のほとんどで、後日裁判や裁決が行われた場合、重加算税の課税は違法とされています。
しかし、税務署は過去の過ちに学ばない組織ですので、あきらめることなく、現在も重加算税を課税しようとしています。
この点、法人税と異なる相続税の性格も影響していると思われます。
相続税の重加算税は、意図的に相続財産を隠ぺいしたような場合に課税されますが、帳簿などの記録は存在しませんので、ミスで申告がもれたのか、意図的に抜いたのか、その判断が難しいという状況です。
結果として、相続税は重加算税を取るのが難しいことを踏まえ、証拠としやすいお尋ね文書を基礎として、重加算税を課税しようとしていると考えられます。
いずれにしても、お尋ね文書の記載は慎重に行う必要があります。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。