会社がフリーランスや士業に支払う報酬の中に、交通費などの実費が混ざっていたとしても、その実費部分についても原則として報酬の一部として源泉徴収の対象になります。
しかし、報酬とは別に請求する交通費の実費まで税金を取るというのはさすがにひどい話ですから、その見直しが必要という声は大きいです。
この点、本連載でも紹介しましたが、とある権威ある税務雑誌の記事で、交通費の実費について、
1 依頼主である会社名義の領収書を取る
2 その領収書と引換えにフリーランスや士業が会社と実費精算する
この二つのステップをとれば、源泉徴収の対象にはならないと解説されていました。
国税庁に取材した記事と思われますので、国税がホームページなどで明確な見解を示した訳ではないものの、このように処理して問題ないようにも考えられます。ただし、現在においてもまだ明確な見解が出ていませんので、慎重な対応が必要です。
話を戻しますが、先日、この記事の続報として、より具体的な事例が解説されていました。
そこでは、タクシー料金に関する事例が掲載されており、タクシー料金についても、会社名義の領収書を取る必要があると解説されていました。
タクシーに乗って運転手にわざわざ会社名義の領収書を要求する、といったことはまずありませんので、唖然とする解説です。
タクシーに限ったことではありませんが、近年は領収書を切ってもらったとしても、名義を空欄にしたリ上様としたりすることもほとんどで、支払先に領収書の名義を書いてもらうことは多くないでしょう。
頼んだことがないのでおそらくですが、タクシーの運転手に会社名義の領収書を切って、とお願いしても、タクシーから出る領収書はレシートで、名義を印字する場所もないと思いますから、手書きで領収書を書いてもらうようお願いしないといけない、といった事態になりかねないと思われます。
加えて、近年はハンコを廃止するべきと叫ばれるなど、コロナ禍もあってより一層ITによる業務効率化が叫ばれる時代です。
こんな時代に、わざわざ依頼主である会社名義の領収書をもらえ、というのは全くのナンセンスです。こういう訳で、領収書の名義にこだわるこのような取扱いには違和感しかありません。
本来は交通費部分も源泉徴収の対象であることから、実費精算であることを明記するために領収書の名義は重要になる。
このように言いたいのでしょうが、実際のところ調査官はそこまで名義には拘りません。
支払った事実があるかどうかが重要だからです。
加えて、交通費部分についても源泉徴収の対象になる、という取扱いを知らない調査官も多いです。そして、課税もれになる税金も大きくないので国税もあまり厳しくありません。
このため、もっと柔軟な取扱いを認める旨、国税が明確な見解を示すべきと考えられます。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。