自宅を売却したような場合には、居住用財産の譲渡所得の特例の適用を受けることができます。
ただし、この特例は、譲渡した建物に「居住」していたことが要件になります。
このため、複数マンションを持っていたとしても、居住していないマンションについては、居住用財産には該当しませんので、この特例の適用を受けることはできません。
このため、特例の適用を受けた場合、その後の税務調査においては、「居住」していたかどうかが問題となります。
この判断は、家屋の入居目的、その家屋の構造および設備の状況等の諸事情を総合的に見て行う、とされていますが、実際のところは譲渡した家屋におけるガスや水道、そして電気の使用実績の検討が重視されます。
居住していればこれらのこれらについては相応の使用実績があるはずですから、その実績が乏しいとなれば、居住していた家屋には該当しないとして、特例を否認されることになります。
このため、居住用財産の譲渡所得の特例の適用を考えるのであれば、確実に譲渡した家屋の公共料金の請求書などを確認した上で、ガス・水道・電気の使用実績が少なくないかチェックをしなければならないと言えます。
しかし、会計事務所の実務上、公共料金の検討を行うことは多くないという印象があります。
実際のところ、「住民票を移しておけば問題ない」という理解の職員の方も多く、住民票の確認で済ますことも多いと感じています。
言うまでもないことですが、住民票があるからと言って、そこに居住しているとは限りません。
税務上、よくある例が所得税を削減するための海外移住です。海外移住すれば日本の所得税を大きく削減できますので、富裕層の海外移住は多くあります。
しかし、海外転出届を提出して住民票を転出させただけでは、海外移住したと判断されず、あくまでも実態として日本に住んでいるのか、海外に住んでいるのかが検討されます。
海外移住した方でも、日本に住所があると国税が判断して所得税が追徴されることはよくあります。
このあたり、非常に常識的なところなのですが、どういう訳か居住用財産の特例についてはその実質判断が甘いと感じています。
毎月記帳するような法人税や事業所得の計算とは異なり、譲渡所得は確定申告のタイミングでしか計算しないため、居住していたかどうか、その実態を確認するのが困難であるからなのでしょうか。
その他、居住用財産の特例については、特例の適用を受ける目的で入居したと認められる家屋や、別荘、仮住まいなど一時的な目的で居住している家屋を売却した場合には、対象にならないとされています。
これらの家屋の判断についても、当然ながら実質判断になりますので、注意が必要です。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。