近年は、税務調査に協力しないことで、脱税した事実を隠そうとするような露骨な行為があれば、それは過少申告しようとする意図を外部からも伺いうる特段の行動として、その「特段の行動」に対して重加算税を課税する実務が増えています。
この「特段の行動」の具体例の一つに、連年無申告があります。
連年無申告とは、所得がありながら複数年にわたり毎年申告をしないことを言います。
連年無申告であれば、脱税の意思が明確であるとも言えますので、この場合には重加算税が課税されることが多くあります。
しかし、先日、10年以上にもわたり連年無申告を続けていた会社に対する重加算税の処分が取り消された裁決事例がありました。
この会社は、設立以来の顧問税理士がいましたが、税理士に提供する書類に不備が多く、正確な決算申告が難しいことから顧問契約を解除されました。
その後、その会社は2~3人の税理士に申告決算を依頼し続けましたが、先の顧問税理士と同様に書類に不備があるという理由や、無申告の期間が長くリスクがあるという理由で断られ続けたのです。
すなわち、脱税を目的に意図的に申告しなかったのではなく、申告したくてもできる状況になかった、というのが正直なところであり、裁決においてはこのことが評価されて重加算税が取り消されました。
この裁決事例で勉強になるのは大きく二つです。
一つは税務調査対策でよく言われることですが、記録の重要性です。税理士に依頼をし続けたという記録をきちんと残していたために、脱税目的あっての無申告ではないことを証明できたと言えます。
もう一つは、出来る限りの最善の努力をすることが税の世界においても重要であるということです。
私の経験を申しますと、帳簿の保存が不十分だった個人事業者の方の税務調査の際、その方がわざわざ取引先に出かけて資料を取ってきて、国税に見せたことがありました。
このようなできる限りの努力をしたことについて調査官も大いに評価し、円滑に税務調査を終えることができました。
こういう訳で、連年無申告であっても、脱税目的がないことを立証できれば必ずしも重加算税が課税される訳ではないのですが、それにしてもこのような最善の努力をしていることは担当した国税調査官も分かったはずです。
裁決で取り消されたとはいえ、国税が重加算税を課税したことが残念です。
「連年無申告は即重加算税である」と、毎度のことながら安直な対応をする国税組織には慎重な対応を求めたいと思います。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。