役員退職金の原資のために、生命保険に加入することはよく行われていますが、実務上これに関してよく問題になることの一つに、退職した役員について掛けていた保険の解約もれがあります。
一例として、退職時は生命保険のピークではないので解約せず、そのまま保険の加入を続けた、といった事例があると聞いたことがあります。
退職金の積立として行う生命保険の保険料は、その全部又は一部を経費とすることができますが、経費になる理由としては役員が死亡した場合のリスクヘッジであったり、会社の福利厚生の一環であったりするため、と解説されています。
いずれにしても、対象になる役員が会社に所属していることが経費になる一因であることは間違いありませんから、退職した後についてまで保険料を経費にするのは問題であるのではないか、と言われます。
その一方で、単なるミスで解約を忘れた場合は仕方ないとしても、生命保険のピークまで待つために解約しないのであれば、会社にとってメリットも合理性もある話ですから、その生命保険の保険料について経費にできるのではないか、といった見解もあります。
少し脱線しますが、退職するため解約した場合の生命保険の保険金額と、経費になる退職金の金額は全く別物と言われます。
具体的には、生命保険の解約返戻金で1億円もらったからといって退職金を1億円出せる訳ではないということです。
このように、生命保険と退職金は別物という考え方からすれば、両者を同一に考える必要はないため、退職後の生命保険料も経費として認めてしかるべき、といった解釈も成り立ちます。
この点、国税庁から明確な見解が出ている訳ではありませんが、とある税務雑誌で国税OB税理士が、退職後の保険料については経費にならない、と解説していました。
この解説では、上記の別物という解釈の合理性も認めつつも、生命保険料が経費になる大前提の理由が優先される、といった見解が示されています。
私の個人的な意見も、この国税OB税理士と同様で、退職後の保険料を経費とするのはやはり難しいと思います。
退職金の原資を積み立てるために保険に加入するのであれば、その役員に利益を与えることになりますので、法人税の本旨としては経費ではなく役員給与として課税すべきものです。
その例外として、一定の生命保険について経費計上が認められる以上、経費になる要件は厳格に解釈しなければならないと考えられます。
こういう訳で、役員の退職時には積み立てた保険の解約を忘れることのないよう、注意が必要です。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。