先日、とある元国税調査官の方の動画を見ていたのですが、クレジットカードの明細でも経費にできる、と解説していて唖然としました。
国税庁のホームページにも書いてある常識的な取扱いですが、クレジットカードの明細では、消費税において経費の控除ができないとされています。
法人税や所得税とは異なり、消費税は経費に関する資料の保存に厳しい要件を設けていますので、カード会社から交付される明細ではなく、クレジットカードを利用した店が交付する領収書の原本を保存する必要があるのです。
にもかかわらず、この元国税調査官がこのような解説をしたのは、法律の建前は別にして、税務調査の実務上、経費についてはその支払事実や支払内容を確認できれば認めているからです。
このため、「領収書の保存がないと経費として認められませんよ」などと国税調査官はよく指導しますが、国税調査官の本音は上記の通りで半ば脅しですから、その言葉通りに受け取る必要はありません。
なお、仮にこのような指導があれば、国税庁の税制改正要望を使って反論しましょう。
平成28年度から現在に至るまで、毎年国税庁は消費税と同様に、「帳簿及び請求書等の保存」を法人税や所得税の経費の要件とするように要望しています。このため、消費税を除き、現状「帳簿及び請求書等の保存」は経費の要件ではないことが分かります。
とは言え、この税制改正要望を安直に解釈して、「帳簿や請求書等の保存は不要である」と判断してはいけません。
確かに、現状経費になる要件に帳簿や請求書の保存はありませんが、帳簿を保存していなければ、税務上メリットが大きい青色申告の承認を取り消された上、所得の金額を国税が概算で計算する推計課税が行われ、大きな不利益を被ることになります。
加えて、領収書や請求書の保存をしていなければ、支払先や支払内容など、経費に該当することについて納税者がきちんと国税に説明をしなければなりません。
この点、過去の判例では、経費についても国税に立証責任があるというのが大前提とされているものの、領収書の保存がない経費については、納税者が相応の立証責任を負うべきとされています。
こういう訳で、経費の計上に当たり、領収書の保存はやはり慎重に行う必要があります。
いずれにせよ、法律をろくに知らずかつ勉強もせず、いい加減な税務調査実務が正しいと誤解しているのが大多数の元国税調査官の話を信用するのは危険極まりないのです。
デマ情報が氾濫している昨今、国税庁としても、税に関するフェイクニュースを垂れ流す、自称「税務調査の専門家」や自称「節税コンサル」といった、税理士法違反の疑いも大きい国税OBに対する監督を強める必要があると考えます。
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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。