成長税理士法人10社による合同就職説明会が開催!
令和5年度(2023年度)第73回税理士試験が、2023年8月8日から10日にて実施されました。受験生の皆さま、お疲れ様でした。
税理士業界では、試験後すぐに就職説明会などが開催されることが通例ですが、2023年8月11日には「成長税理士法人合同就職説明会」がLEC東京リーガルマインド中野本校にて開催されました。主催はLEC東京リーガルマインド、セブンセンス税理士法人、アンパサンド税理士法人。
また、その趣旨に賛同した税理士法人と合わせて合計10社集うイベントとなりました。
今回参加した10社の税理士法人
- RSM汐留パートナーズ税理士法人
- 税理士法人アイユーコンサルティング
- 税理士法人UNNAMED SERVICE
- アンパサンド税理士法人
- 円満相続税理士法人
- サン共同税理士法人
- セブンセンス税理士法人
- 税理士法人タックス・アイズ
- 税理士法人Beso
- 税理士法人矢崎会計事務所
大手資格予備校などが開催する就職説明会では、会計事務所がブースを出し、そこに受験生が訪問する形式が一般的ですが、今回の成長税理士法人合同就職説明会では、基調講演や事務所紹介ピッチ(短時間プレゼンテーション)、パネルトークなども併せて開催され、受験生に多方面から参加企業を知ってもらおうとする工夫がみられました。
当日のプログラム・タイムテーブル
- 13:00 開場
- 13:30 基調講演:「会計事務所業界の未来」
弥生株式会社 岡本 浩一郎 氏
弥生株式会社 顧問の岡本 浩一郎氏より会計事務所業界の未来についてご講演いただきます。
- 14:15 各税理士法人による事務所紹介
出展税理士法人がそれぞれの事務所の特徴や魅力について説明します。 - 15:40 パネルトーク
「これからの時代に求められる税理士法人スタッフとは?」「これからの時代に勝ち残る税理士法人とは?」という2つのテーマで出展税理士法人によるパネルトークを行います。 - 16:40 個別説明会
各税理士法人ごとにブースに分かれて個別説明会を行います。この機会に出展税理士法人のことを良く知っていただくとともに、リレーションを構築してください。
そのおかげか、当日は100名近い税理士受験生が集まる賑わいに。
本稿では「会計事務所業界の未来」と題された、弥生株式会社の前社長であり、現在は顧問を務められる岡本浩一郎氏の基調講演をダイジェストでお届けします。
当サイトは今回のイベントや講演に取材以外での一切の関わりを有していませんが、弥生株式会社は当サイトのスポンサーとなります。
弥生の前社長が語る、デジタルインボイス時代の税理士の戦い方
弥生株式会社 顧問 岡本浩一郎氏
法人税ファーストからから消費税ファーストへ
2023年3月に退任するまでの15年間、弥生株式会社の代表取締役社長を務めていた岡本氏は、2023年8月時点で、顧問を務めています。
その岡本氏の講演は、このようなメッセージから始まりました。
これまで税理士にとっての花形は法人税でしたが、これからの時代は消費税の重要性が増していくと考えられます。」(岡本氏、以下同様)
岡本氏がそう語る理由はふたつ。
ひとつ目に、消費税収が法人税収を大きく上回っていること。
財務省によれば、2009年から消費税収は法人税収を上回っており、特に消費税が8%へと引き上げられた2014年からは、大きく水をあけています。
国際的な競争力を保たなければいけない中で、法人税をこれ以上増やすことは難しい。他方で消費税は、諸外国を見渡せば20%という国もある。そのため今後、税収を上げるなら、国は消費増税を狙うはずというのが岡本氏の見立てです。またインボイス制度も消費税増にはプラスに働くでしょう。
ふたつ目に、税務調査の観点。
法人税においてはその複雑性から、常に一元的に税務処理が導かれるわけではありません。税理士としては、税務調査において税務署と侃々諤々の議論を実施し、落とし所を探ることも腕の見せ所と言えるでしょう。
逆に税務署は、会社や税理士に税務処理の根拠を示し、毅然と対応しなければなりません。しかし近年、これまで法人税の税務調査を担ってきたベテラン職員が定年退職を向かえており、これまで通りの税務調査が難しくなっていると、岡本氏は指摘します。
税務調査の観点からは、法人税は必ずしも徴税しやすい環境とはなっていないのです。
それに対して消費税は、帳簿や証憑さえあれば判断に迷うことは少ないので、税務調査は比較的難しくありません。
そのためか「地域差はあるものの、全国の会計事務所から『最近は消費税の税務調査が厳しく、仕入税額控除が完全否定された』という声が増えている」と、岡本氏は語ります。
後述するように、例えば従前は認められていたクレジットカードの明細による処理が今は認められない、といったケースが出てきているようです。
このような事情から、今後は消費税の重要性が増してくるでしょう。これまで『法人税ファースト』だった税務実務が『消費税ファースト』へと変わっていくというのが、私の見立てです。
帳簿ファーストから証憑ファーストへ
岡本氏の講演は、次の話題に進みます。
これまで会計業界は『帳簿ファースト』で動いてきました。これからは『証憑ファースト』になっていくでしょう。
当然ながら、これまでも消費税において仕入税額控除が認められるためには、帳簿と証憑が必要でした。ただ、帳簿にちゃんと記帳がなされていれば、大目にみてくれるケースは少なからずあったようです。それが今後は変わっていくのだと、岡本氏は言います。
記帳がされていても、適格請求書がなければ仕入税額控除は認められません。それがインボイス制度です。ゆえにこれからは、証憑をいかにしっかり管理するかが非常に重要になってきます。
例えば、これまでは請求書をもとに記帳がされてきました。しかしインボイス制度の下では、適格請求書として求められている記載がなければ、適格請求書としては認められません。
つまり、ある書類に「請求書」と書かれているからといって、それが請求書にはならないかもしれないのです。
例えば『納品書』に適格請求書として必要な情報が記載されている、つまり納品書で消費税計算がされていれば、消費税計算時の端数処理が一回しか認められていない以上、納品書が適格請求書に該当する可能性があります。
その場合には納品書を保存しておかないと、税務調査に耐えられません。
繰り返しになりますが、これまで会計事務所の使命は、正確な帳簿作成でした。
しかし今後は、どの資料が本来の適格請求書に該当し、当該資料を保存するよう指示できるかも、会計事務所の役割となってくるでしょう。
つまりこれからは、『帳簿ファースト』ではなく『証憑ファースト』の時代になっていくのです。
皮肉なことに「『証憑ファースト』の流れへの対応は、先進的な会計事務所ほど苦労するかもしれない」と岡本氏は語ります。どういうことでしょうか。
例えば、これまで銀行やクレジットカードの明細を電子的に取り込んで記帳するという業務フローは、会計実務としてもある程度認められてきました。
正確かつ効率的に記帳できるので「帳簿ファースト」の世界感では、このやり方は正解にあたります。
ただ残念ながら、銀行やクレジットカードはあくまで決済手段であり、その明細は決済記録です。その明細は適格請求書にはなりえず、『証憑ファースト』の世界ではこの方法は不正解となってしまいます。
これまで先進的な会計事務所ほど、銀行やクレジットカードの明細を電子的に取り込み記帳に活かし、業務を効果的にこなしてきました。これだけ効率化してきたのですから、今さら紙の請求書を使って手動で記帳する世界には戻ることは困難でしょう。
こういった事情から岡本氏は「先進的な会計事務所ほど、苦労する」と述べました。
とはいえ、この状況を打破するためのヒントはみえています。
2023年10月から実行されるインボイス制度における「デジタルインボイスの活用」です。
もちろん10月になったからといって、一気に社会がデジタルインボイスに対応するわけではありません。しかし「デジタルインボイスを上手く活用することで、これまで以上に業務を効率化できる可能性がある」と、岡本氏は主張します。
これまでの銀行やクレジットカード明細の取り込みによって達成できたのは、記帳の効率化だけでした。しかしデジタルインボイスなら、例えばこれまで負担の大きかった入金消込のような作業も自動化できる可能性があります。
記帳だけでなく事業全体を効率化することは、税理士にとっても会社にとっても喜ばしいことでしょう。
デジタルインボイス時代の、会計事務所の付加価値は
ここまで「法人税ファーストからから消費税ファーストへ」「帳簿ファーストから証憑ファーストへ」という話をしてきた岡本氏。話題はこの状況を踏まえた税理士の在り方へと移ります。
先述した環境変化やデジタルインボイスの登場によって、今後は帳簿付けという業務はなくなるでしょう。単純な記帳自体が付加価値となる時代は終わります。
もしかしたらこのような状況を、税理士業界の危機と感じた方もいるかもしれません。しかしこれは同時にチャンスでもあります。どちらにできるかは、皆さん次第です。
このような状況で、会計事務所の仕事はどうなるのでしょうか。
岡本氏は「その答えは……今日集まっている『成長税理士法人』の皆さんが教えてくれるでしょう(笑)」と笑いを誘いつつ、以下のように語り、講演を締めました。
単に記帳や申告をたくさんこなすことは、今後税理士の強みにはならないでしょう。では何が付加価値になるのか。残念ながら、唯一無二の解はありません。
ですが、勝ちパターンはいくらでもあります。
例えば創業支援、融資の支援、資産税への特化かもしれませんし、デジタルインボイスを活用した業務効率化かもしれません。ぜひ皆さん一人ひとりの答えをみつけて下さい。
税理士の歴史の転換点を生き抜く
デジタルインボイスの導入、またAIやSaaSなどのテクノロジーの発展により、これまで以上に税務における単純業務は減っていくでしょう。それゆえに、税理士や会計事務所は独自の「勝ちパターン」を見つけることが必要になってきます。
同時に、岡本さんが語るとおり、制度改定をピンチではなく、チャンスに変えていける会計事務所が今後は成長していけるのでしょう。
インボイス制度やデジタルインボイスが始まる現代は、もしかしたら歴史の転換点なのかもしれません。
なお、講演に関連するより詳しい内容が、岡本さんのnoteにまとめられています。興味のある方はこちらもご覧いただくと、参考になるでしょう。
また「成長税理士法人合同就職説明会」は岡本さんの講演の後、成長税理士法人10社によるPRピッチとパネルトークが繰り広げられています。こちらも併せてご覧ください。(明日、2023年9月29日10時公開予定です!)
- これからの会計事務所スタッフに必要なのは●●!? 10社の税理士法人の代表たちが語ったパネルトークに潜入!
※明日、2023年9月29日(金)10時公開予定です。