消費税の還付申告に対しては、原則としていったん還付を保留して国税が申告の内容を確認した上で、問題がないと確認できた場合に実際の還付が行われることになっています。
還付とは逆の納税の申告の場合、申告期限内に納税が必要になりますので、制度論としては申告と同時に還付がなされるべきです。
しかし、消費税については不正な還付申告が行われることも多いため、判例においてこの「還付保留」が認められています。
このため、消費税の還付が遅れても国税を責めることは難しいですが、コロナ禍の現在においては、還付保留される期間が従来に比して異常に長いです。
遅くても通常は申告期限から3月程度で還付されていたのに、3か月超経っているのに還付がされないどころか還付の審査に必要な資料についての連絡すらない、といった状況なのです。
還付が遅くなっている原因として、考えられる原因は大きく二つあります。
一つ目は、コロナ禍の混乱です。
だいぶん落ち着いてきたとは言え、コロナにはまだまだ配慮せざるを得ない部分があり、結果として国税の実務も大きく見直されたと解されます。
このため、還付の処理が後回しになっている部分もあるのではないかと思われます。
もう一つは、本メルマガでも何度も指摘している国税の能力低下です。
国税の能力が落ちているため、還付していいかの判断がなかなかつかなかったり、そもそも段取り力もないのでスムーズに仕事が進まなかったりしているのでしょう。
これに輪をかけて、近年は悪質な消費税還付も増えていますから、より詳しくチェックしなければならないというジレンマもあります。
とは言え、消費税が大きく増税された昨今、消費税の還付金も巨額になり、会社の資金繰りなどに消費税の還付金を当てにすることが多くなっています。
一例として、先日、国税が税務調査の追徴税額の回収を阻害したとして、調査先に融資を行っていた大手銀行を提訴した事件が挙げられます。
この調査先に大手銀行が融資した理由は、その調査先が消費税の還付申告を行い、還付金の収入が見込まれたからと言われています。
とりわけ、消費税の還付金については、会社の経理方法によっては還付申告のタイミングで収益に入れることが原則です。
となると、還付保留される場合には、収益に計上して法人税は課税されているのに、肝心の還付金は入ってこない、といった事態も生じることがあります。
いずれにせよ、消費税の還付金は経営に大きな影響がありますので、人材不足の国税には荷が重すぎますが、できる限り処理を急ぐべきでしょう。
⇒「元国税調査官・税理士 松嶋洋が語る!税務署の実態と税務調査対策ノウハウ」の一覧はこちら
税務調査対策ノウハウを無料で公開中!
元国税調査官・税法研究者 松嶋洋による税務調査対策に効果的なノウハウをまとめたPDFを無料で公開中!ご興味のある方は下記サイトよりダウンロードください。
元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?
元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。