未払役員報酬と源泉徴収義務:元国税調査官・税理士 松嶋洋が語る!税務署の実態と税務調査対策ノウハウ

元国税調査官・税理士 松嶋洋が語る_税務署の実態と税務対策ノウハウ

本記事は元国税調査官・税理士 松嶋洋がセブンセンスグループのメルマガに掲載したコンテンツの再掲載です。記事内で言及されている法令ならびにその解釈はメルマガ掲載時のものとなります。

資金繰りなどの都合上、役員報酬を未払にすることは多いですが、ここで押さえておくべきは未払にした役員報酬については、「未払金」としたままとし、それを「役員借入金」として経理しないことです。

この理由は、このような経理を行うと、源泉徴収のリスクが発生するからです。

給与などから天引きされる所得税の源泉徴収義務は、その所得税の対象になる所得の「支払」の時に発生することとされています。
このため、実際に支払いがなされなければ所得税の天引きもできませんから、支払を受ける権利が確定しても、実際に支払いが行われるまでは、源泉所得税を納税する義務はありません。
すなわち、毎月の役員報酬が未払であれば、源泉所得税を納める義務はありません。

実務では、支払のタイミングを把握するのが煩雑ということもあり、未払でも源泉所得税を計算して納税することが多くありますが、法の建前としては、源泉所得税の納税義務は実際に支払われない限り、ないのです。

ここで押さえておきたいことは、「支払」の意義です。
支払というと現金で支払うことをイメージしますが、源泉徴収義務の判断については、現金で支払う場合に限定されません。
極端な例ですが、現金に代えて土地や有価証券などの現物を支給するようなケースも、この「支払」に当たるとされています。

専門的な話ですが、源泉徴収義務が発生する「支払」とは、支払うべき給与などの所得についての債務が消滅することを意味するとされています。
現物支給でも債務は消えますから、この「支払」に該当するのです。

冒頭に話を戻しますが、未払の役員報酬を「未払金」から「役員借入金」に経理しなおす、ということは、役員報酬を支払う債務が消滅し、その債務に代えて役員から別途会社が借金をした、という取扱いになります。
こうなると、役員から借金をして役員報酬を支払ったことと同じと判断されますので、未払の場合には発生しない源泉徴収義務が、この経理を行ったタイミングで発生することになるのです。

困ったことに、役員報酬は資金繰りに関係なく原則として毎月同額でなければなりませんから、未払の役員報酬は大きな金額になることが多くあります。
加えて、資金繰りに難があることが多い中小企業については、役員からお金を借りることも多いため、決算書に役員借入金が計上されることが通例です。

未払の役員報酬も役員借入金も、会社にとっては役員に対する負債ですので、一つにまとめてしまうことが実務ではよくあります。しかし、上記のようなリスクもある訳ですから、再度処理を見直す必要があるでしょう。

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元国税調査官・税法研究者 松嶋洋とは?

元国税調査官・税理士・松嶋洋元国税調査官・税法研究者・税理士
松嶋 洋

昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。
現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。とりわけ、平成10年以後の法人税制抜本改革を担当した元主税局課長補佐に師事した法令解釈と、国税経験を活かして予測される実務対応まで踏み込んだ、税制改正解説テキストは数多くの税理士が購入し、非常に高い支持を得ている。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に 税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。

参考サイト

著書

引用元: 未払役員報酬と源泉徴収義務|セブンセンスグループ

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